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結局、もうひとつじゃがバターを買った。 当然、私からアカネへのおごり。 ゴンドラに乗り込んだ彼女に手渡す。 「あ、この子はアカネ。学校の友達なんだ。」 「あ、はじめまして。アリアカンパニーの水無灯里です。」 「あ、ご丁寧に・・・って、亜沙里っ!?」 「はひっ!?」 やばい! バレたか・・・ お目当てだったウンディーネさんがこの灯里さんだったことが・・・ 「なにお目当てのウンディーネさん見つけて、独り占めしてんのよぉ。」 「ごめんなさひ〜」 「ほひぃ〜?」 急な展開に目を丸くしてる灯里さん。 でも、なんだか楽しそうにも見える。 こりゃ、アカネも灯里さんと仲良くなっちゃうかも・・・ 「ま、まあとりあえずアカネだって、灯里さんに会えたんだし、いいじゃん。」 「・・・ま、いっか。 もう諦めちゃってたかんね。・・・んじゃぁ、じゃがバターおかわりっ!」 「ええっ!? まだ食べるのぉ?」 「当たり前でしょ!? あんたは一人で充分楽しんだんだし、埋め合わせは必要っしょ?」 「・・・おじさん、じゃがバターもう一個・・・」 「あいよ!!」 じゃがバターをはふはふしながら、これまでの出来事を報告させるアカネ。 水の水の3大妖精に会った話をしたときにはさすがに殺されかけたけど・・・ 首・・・絞めないでね・・・ 灯里さんは最初こそアワアワしていたけど、途中から安心してた。 「修学旅行ですかぁ。 なんか懐かしいですねぇ。」 「 灯里さんもネオ・ヴェネツィアだったんですか?」 「ううん、ウンディーネになるために来たのが最初でした。」 「考えてみたら、うちの学校以外じゃまだ珍しいかもね。」 「ん、そういえばめったに修学旅行客って見なかったなぁ・・・」 考えてみたら、修学旅行自体やらない学校も結構多いかも。 うちの学校って結構自由だし、ラッキーだった。 だって・・・ネオ・ヴェネツィアに、灯里さんに出会えたんだもん。 「また、幸せ全開って顔してるな。・・・楽しんだね、存分に。」 「うん!」 「・・・昨日と全然違うね。」 「え?」 アカネってば気づいてたんだ。 昨日の不完全燃焼だった私に・・・ 顔には出さないようにしてたんだけど・・・ 付合い・・・長いもんね、。 「んじゃっ、おじさんじゃがバターもう一個っ!! ・・・亜沙里のおごりで!」 「あいよっ!」 「ええっ!? まだ食べるのぉ!?」 目を丸くする私に『当然っしょ?』という表情を向けるアカネ。 結構高くついたなあ・・・っていうか、いくつ食べるの、あんた・・・ ごそごそと財布をまさぐる私・・・ すると・・・ それを遮るかのように代わりに代金を払ってくれる灯里さん!? 「今度は私がおごっちゃいます。 アカネちゃんも、お友達ですから・・・ネっ!!」 とびきりの笑顔で軽くウインク。 うわぁ、またまた素敵過ぎる! 「あ、ありがとうございますっ!!」 深々と礼をするアカネ・・・ よほど嬉しかったのだろう。 心なしか瞳が潤んでいるように見えた。 そのじゃがバターは、アカネにとって 最高の味だったに違いない。 灯里さんの笑顔は宇宙一の調味料だから・・・ 私も何だかまた食べたくなっちゃった。 「おじさん、もう一個!!」 「あいよっ!」 「じゃあ、そろそろ戻りますね。」 「そうだね。」 時計を見ると、もう3時・・・ まだ余裕があるとはいえ、あんまりまったりしてると、集合時間に遅れちゃうかも。 アクアの時間はマンホームと同じ1日24時間・・・ でも、何だか流れてる速度が違うように感じるな・・・ だから、感覚が狂っちゃうかも? ゆったりとしたペースでゴンドラを漕ぐ灯里さん。 やっぱ・・・ウンディーネって・・・綺麗・・・ 水の妖精の名を持つのも納得。 灯里さんはその中でも特別素敵だな・・・ 「ただいまぁ!!」 「あらあら、おかえりなさい。」 優しい笑顔で私たちを迎えるアリシアさん。 「ぷぷぷいにゅ〜〜!」 「アリア社長、ありがとうございます!」 灯里さんの胸に飛び込むアリア社長。 しっかり抱きとめる灯里さん。 ・・・重くないのかな? 「お疲れ様、灯里ちゃん。・・・そうだ。亜沙里ちゃんに・・・えっと・・・」 「あ、私アカネです。」 「うふふ、アカネちゃんね。よかったら二人とも上がっていかない?」 思いがけないアリシアさんのお誘い。 灯里さんもわくわくしながら私たちを見てる。 これは、断ることなんてできない。 だって・・・断った一生後悔しちゃう! こんな素敵なお誘い、奇跡だよぉ・・・ 「ぜひっ!!」 「お願いしますっ!!」 「あらあらあら・・・ うふふ・・・」 アリシアさんも、すごくふんわりな人・・・ 灯里さんと共通の《におい》のようなもの 感じる・・・ きっと、灯里さんが素敵なのって、いい先輩にめぐり合えたのも大きいんだろうなぁ・・・ だって、この人じゃなかったら、灯里さんのいいところを見つけられなかったかも知れない・・・ そして それを伸ばしてあげられなかったかも・・・ いい 先輩後輩関係だね・・・ 「郵便〜!」 「あ、郵便屋さん!」 「いつもありがとうね、郵便屋さん。」 私たちが2階に上がろうとしていると、ちょうど郵便屋さんが来た。 ゴンドラで来るんだ、ここは・・・ マンホームじゃ、すっかり見かけなくなったかも、郵便屋さん・・・ 「はい、嬢ちゃん宛て、マンホームからだな。」 「ありがとう! わぁ、アイちゃんから! お手紙なんて珍しいなぁ。」 何でも、アイちゃんとは今でもメル友続いてるらしい。 何べんかここにお邪魔してるって言ってたなぁ。 「そう言えば、たまには紙の手紙出したいなって言ってたかも。」 「そっか。アイちゃんってアカネのいとこだもんね。」 「そうなんだ。ねえ、アイちゃん、元気?」 「うん! また灯里さんに会いたいって言ってたよ。」 かつて、あまりアクアを好きでなかったアイちゃん・・・ でも、今ではアクアが大好き。 灯里さんに アクアのいいところ いっぱい見せてもらったから・・・ 私にもわかる その気持ち・・・・・・ アイちゃんのお手紙の内容はというと・・・ 『灯里さん、ウンディーネのプリマ昇格試験もうすぐだね・・・ 灯里さんなら、きっと余裕で合格できると思う。 でも、油断はしないでね。灯里さんってちょっとそそっかしいみたいだから・・・ 私、灯里さんなら アクアで一番のウンディーネになれると思うよ。 がんばってね! アイ』 そして、折り紙で折ったゴンドラが同封されてた。 合格祈願のお守りだろう。 「あちゃ〜・・・ アイちゃん出すの遅すぎ。」 「うん、間に合わなかったね、アカネ・・・」 タイミングを外してしまった手紙・・・ でも、灯里さんはそんなこと気にしてないみたい。 「ううん、無駄にはならなかったよ。この手紙に込められた想いが私の力になったんだ。きっとね・・・」 「そうね。紙のお手紙って、そういう不思議な力があるかもね。」 大事そうに手紙を胸に抱く灯里さん。 それを見つめるアリシアさんは とてつもなくあたたかい・・・ 「すわっ!!」 びくぅ!? な、何!? 「遅いぞ、アリシア、灯里! それに・・・そこの二人!」 「ええっ!?」 2階に上がった私とアカネは眼が点になった。 だって・・・ そこにはさっき会ったはかりの晃さんとアテナさんが座っていた。 あ、藍華さんとアリスさんもいる・・・ ここって・・・アリアカンパニーの店内だよ・・・ねぇ・・・ 何でこんなに色とりどりのウンディーネさんが集まってるの? 私ですら不思議なんだから、アカネなんかもう顎がカクンと落ちっぱなし・・・ 状況がまったく把握できてない・・・無理ないって。 「どうぞ。」 「あ、どもっ。」 「あ、ありがとうございます。」 あっけにとられていた私たちを我に返してくれたのはアテナさんだった。 いつの間にか私たちのすぐそばにクッションが二つ置かれ、着座を勧められた。 さりげなさ過ぎです、アテナさん! 目から鱗が落ちます。 「みんなね、灯里ちゃんの初陣を祝おうって集まったのよ?」 「はひっ!? あ、ありがとうございます!」 そっか・・・ みんな、灯里さんのプリマ昇格、喜んでるんだ。 会社の壁なんて 無効化されちゃってるのね。 灯里さん、みんなに愛されてるんだ。 無理、ないよねぇ・・・ 「アリシアさんが晃さんやアテナさんを呼んでくれたんですか?」 「ううん、今回のお祝いも晃ちゃんの提案なの。」 「アリシア!! 余計な事言うの禁止だ!」 あ、晃さん、照れてる照れてる。 一見するとキリッとしてシャープなイメージの人・・・ でも、内面はすごく優しくってシャイな人なんだな。 後輩の藍華さんもちょっと似た感じする。 なんだか、いい姉妹って感じ するね。 「私もアリシアちゃんもあんまり自分からこういう集まり持ち掛けないから・・・」 「うん、いつも晃ちゃんが率先して『集まろう』って言ってくれるの。」 「すわっ!! 無駄口禁止っ!!」 「晃先輩って、藍華先輩とでっかいそっくりですね。」 「ぅなっ!? 恥ずかしい指摘禁止っ!!」 あららら・・・ アテナさんがまた激しく震えてるっ! 爆笑してる・・・んだよね。 「あらあら・・・アテナちゃん、笑いすぎ、禁止♪」 「すわっ! そこっ! 真似っ子禁止っ!!」 「本当に でっかいそっくりですね。」 「そーいう後輩ちゃんだって、アテナ先輩とそっくりじゃん。」 「でっかいお世話です。」 すごく賑やか・・・ 遠慮なんてなく 互いに腹を割ってお話してるのが感じられる・・・ みんな同じ会社みたいに・・・ ううん、違う・・・ 同じ会社だからって ここまでは仲良くなれるとは思えないよ。 まるで 家族だね・・・ 「亜沙里・・・何かいいねぇ・・・」 「うん。」 一人前のウンディーネ《プリマ》・・・ それもトップの中のトップ 《水の3大妖精》・・・ 合同練習はおろか 一緒に集うことすらなかなかできないはずだ。 それでもまったく絆は弱まっていないんだね。 「灯里・・・そういえば、前もこういうのあったね。」 「うん。あの時は藍華ちゃんにも心配かけちゃったね。」 「あのときの二人、でっかい大声で恥ずかしかったです。」 かつて・・・ 灯里さんがまだ半人前だった頃・・・ 今日みたいにみんなで集まったことがあって・・・ 灯里さん 別れ際にしんみりしちゃたんだって・・・ 今みたいに会うことが そのうちできなくなるって・・・ ずっと一緒だと思っていた・・・ 一緒なのが当たり前だと思っていた・・・ そんな友達と会えなくなる日がやがて来るのかと思うと胸が締め付けられた・・・ そんな灯里さんの気持ち・・・ 私も・・・ わかる・・・ 今 学校で笑いあう大切な友達も・・・ 卒業したら もう会えなくなる・・・ 敢えて考えないようにしていたかもしれないけど それが現実・・・ でも 灯里さんは乗り越えたんだ。 今のままじゃなくても 会えなくなるわけじゃない・・・ 理屈では容易に理解できるけど 受け入れることは容易じゃない。 でも 受け入れたんだね、灯里さん・・・ 強い人・・・ ああ、またもや憧れてしまう・・・ わたしも・・・灯里さんみたいに強くならないと、ネ! 「あれれ? 亜沙里ちゃん どうかしたの?」 「んぁ!? な、なんでもないよ。」 考え込んでた私の顔を心配そうに覗き込んでいた灯里さん。 こんなに間近で見ると 赤くなっちゃうよぉ 私・・・ 藍華さんがアリシアさんラブだって言う気持ちも こんな感じなのかな? でも・・・なんてあったかいんだろう この笑顔・・・ 胸の奥が暖かくなる・・・ 勇気が沸いてくる・・・ それに・・・ なんていうのか・・・ 壁のない 無防備な心の持ち主・・・なんだね。 だから みんなも近づいてきて 人の輪ができる・・・ 「亜沙里、さてはあんた灯里さんに惚れたね?」 「あひっ!?」 「はひっ!?」 アカネの《図星》にみょうちくりんな反応をしてしまった私。 灯里さんも赤くなってる。 「あらあら・・・もてるわね、灯里ちゃん。」 「なっ?! あ、アリシアさん!」 「うふふ・・・」 ますます赤くなる灯里さん。 卑怯だよぉ、その可愛らしさ・・・ 年上なんて・・・感じられないね・・・ 「まあ、さすがにアリシアさんには敵わないけどね?」 「あらあら・・・」 「そうでもないぞ、藍華。 な、アリスちゃん?」 「!? で、でっかい突然 何を言い出すんですか?」 「後輩ちゃん・・・『でっかい』の使い方、変!」 「でっかいお世話です!!」 「うん。確かに灯里ちゃんに出会ってから 明るくなったわね、アリスちゃん。」 「!! ・・・・・・私、そーゆう事言うアテナ先輩・・・でっかい大嫌いです!」 「!!」 あらら・・・ アテナさん、ショック受けちゃった。 この人、アリスさんのことをすごく大事にしてるんだね。 だからきっと 灯里さんにもすごく感謝してるんだね。 自分の殻に閉じこもりがちだったアリスさん・・・ そんな彼女の殻を破るきっかけを作ったのは 紛れもなく灯里さん・・・ いつもどおりの自然体で 殻の中へと染み込んでいった・・・ それがきっかけ・・・ 「アリスちゃん。あんた、声でっかくなって良かったよな。」 「確かに・・・あの時は蚊の鳴くような声で『ゴンドラ通ります』だったもんね。」 「もう少し声 でっかかったですっ。」 「いや、今の藍華のでも大きすぎるくらいだったぞ。最初は蚊が鳴いたのかと思ったな。」 「でっかい 意地悪です!」 私も 変れるかな? ううん・・・ 私も 変るんだ! 「私・・・卒業したら・・・アクアに引っ越してくるんだ。」 「・・・亜沙里っ!?」 やっぱりいきなりすぎたかな? アカネ、一瞬何が起こったかわからない顔 してた。 「ちょっとあんた、何急に言ってるの?何で?」 「私もなりたいんだ! 灯里さんみたいなウンディーネに。」 「はひっ!?」 急に名前が出たもんだから、灯里さんの目はまん丸。 普段から大きくてくりくりした目が2倍の大きさになったように見えた。 「・・・亜沙里・・・」 「ごめんね、アカネ。でも、マンホームじゃ成れないから、ウンディーネには・・・」 少し寂しげな表情のアカネ・・・ 胸がきゅんとする。 けど・・・散々考えた上で出た結論なんだもん・・・ 今まで 卒業後のこと あまり真剣に考えてなかった・・・ そのままハイスクールに行けばいいかなと思ってた・・・ やりたいことなんて見つけられずにいたから・・・ でも・・・ そんなのって何か違うって心の奥ではずっと思ってた。 まるで小さな穴でもあいてるみたいに 隙間風が吹き込んでいた・・・ その穴が 今 塞がった・・・ 「亜沙里ちゃん・・・だったな。ウンディーネになるのはそう簡単なことじゃないぞ。」 「はい。」 「挫折して 泣く泣く諦めた子も大勢見てきた・・・それでも目指すというのか?」 「はいっ!」 「プリマになれるのは、ほんの一握りだ。それでもいいのか?!」 「はいっ!!」 晃さん、真剣な目で私を問い詰めていく。 半端な気持ちでウンディーネを目指すなというんだろう・・・ でも、半端な気持ちなんかじゃない。 やらないで後悔なんてしたくないんだ。 やって駄目でも 絶対何か得られる。 後悔なんてしないよ! じっと私の目を見つめていた晃さん・・・ 険しかった目つきがにわかに優しく変っていく・・・ 通じたんだ・・・私の気持ち・・・ 「そっか・・・じゃあ、もう何も言わない。頑張れよ!」 「あらあらあら・・・うふふふ」 晃さんの言葉で 堰を切ったように溢れ出す私の涙・・・ アリシアさんも歓んでくれてるようだ。 あれ? 涙・・・誰か拭いてくれてる・・・ あ、アテナさんだ。 さりげなく私の涙を拭いてくれてる・・・ 「よかったね、亜沙里・・・」 先ほどまでとは打って変った穏やかな声・・・ アカネはやわらかな笑みを浮かべている・・・ 困ったことがあったとき いつも相談に乗ってくれてた・・・ その時も いつもこんな笑顔 見せてくれてたね・・・ 「アカネ・・・」 「ここまでタンカ切っちゃったんだから、ちゃんとやんないと許さないからね。」 「うん! きっと灯里さんみたいなウンディーネさんになるよ。」 「その時は、あたしも乗せてよね!」 「うん!! 思いっきりたっぷり ネオ・ヴェネツィアの魅力 伝えてあげるからね!」 がっしりと握手をする私とアカネ! 互いの手に力がこもる。 アカネとも約束したんだ。 後戻りなんて 絶対しない。 たとえゆっくりでも 前へ前へと進んでいくんだ・・・ 灯里さんと同じ 一人前・プリマウンディーネの世界へと・・・ 「灯里、ライバルが増えたわね。」 「でっかい脅威ですね。」 「うん。でも、おたがいアクアを代表できるようなすばらしいウンディーネ、目指そうね!」 「はい! お客さんがみんなウンディーネになりたくなっちゃうようくらいにね!」 「・・・でも・・・それは無理だと思うわ・・・」 アテナさんが ぼそりと呟く。 私、何かヘンな事言ったかな? みんなアテナさんをじっと見詰める。 「すわっ! ・・・どういう意味だ?アテナ。」 「だって・・・男の子はウンディーネになれないから・・・」 当たり前だよぉ、アテナさん〜 晃さん、思いっきり体のバランスを崩しちゃった。 「そりゃ、そうだ。ネ、後輩ちゃん。」 「アテナ先輩、でっかい大ボケです。」 「あわわわ・・・アリスちゃん、自分の先輩にそんな言い方しちゃだめだよぉ・・・」 「本人は気にしてないから でっかい問題なしです。」 「あらあらあら・・・うふふふ」 場は再び和んでいく・・・ アテナさん、あなたは本当に不思議な人です。 「マンホームに帰ったら、ゴンドラ練習のバーチャルネットシミュレータソフト、買わないと・・・」 「あ! 亜沙里ちゃん、よく注意した方がいいよ?」 真顔で 私の肩を両手でガシッと掴む灯里さん。 よほど伝えたいことがあるのだろう。 今日見た中でも一番真剣な目つきをしてる。 「シミュレーターをセッティングするときはちゃんと正しい方向に設定しないと駄目だからね!」 「うふふ・・・灯里ちゃん、それでかなり大変だったもんね。」 「もし、灯里がマンホームでちゃんとした練習してたら、もっと早くプリマになってたかもね?」 「でっかい 侮れないです。」 灯里さんの無敵逆漕ぎモード・・・ その出発点は シミュレータの設定間違いだった。 でも、それが灯里さんの財産にもなってるんだね。 誰にも 真似ができない・・・ 「逆漕ぎもいいなと思うよ、私。灯里さん以外の誰にも真似できないすばらしい宝だから・・・」 「・・・亜沙里ちゃん・・・」 「そこっ!! 恥ずかしいセリフ禁止っ!」 あ、藍華さんにびしりと突っ込まれた。 でも、何だかこれっていいなあ。 じゃあ、お約束どおり・・・ 「え〜〜〜〜っ?」 これで成立・・・っていうのかな? 何だか、すっきりするかも・・・ 「私は逆漕ぎにならないように気をつけます。アドバイスありがとうございます、先輩!!」 「うん! 一緒にがんばろーね!」 「あたしも負けないわよ。新しい後輩ちゃん!」 「はいっ 藍華先輩!」 「でっかい ライバル出現ですね!」 「よろしくお願いします アリス先輩!」 ウンディーネ界に入れば、みんな仲間でライバル・・・ 頑張るぞぉ!! 「・・・ねぇ、亜沙里、亜沙里・・・」 「何?アカネ・・・」 アカネが指差してる先にある時計の針・・・ 3時? あれれ・・・時間、たってない? 「あらあら・・・時計、止まってるわね。」 「はひぃ!電池換えてなかったから・・・」 「でっかい 5時過ぎてます。」 やばいっ!! 集合時間まであんまりなくなってしまった。 これは早くかえらねばっ!! 「じゃあ、途中近道を通ってホテルまで急ぎます!」 「行ってらっしゃ〜い、灯里ちゃん。またね、亜沙里ちゃん、アカネちゃん。」 「はい!」 「さよーならー!」 手を振るアリシアさんの姿がだんだん小さくなる。 他のみんなも手を振ってくれている。 灯里さんはゴンドラを一所懸命に漕いでくれている。 歩くよりはずっと早いもんね、ゴンドラなら・・・ 「まだ先だけど・・・こっちへ越してきたら毎日、手紙出すね。」 「へぇ、メールじゃないんだ。」 「うん。紙の手紙。 何だかあったかくて いいなって思ったんだ。」 「うん、確かにいいかも、紙の手紙・・・」 私たちの会話を聞いている灯里さんも嬉しそうだ。 きっとアイちゃんからの手紙がすごく嬉しかったんだね。 「そっか・・・楽しみに待ってるからね。」 「うん!」 ウンディーネ試験に受かったら、まずは2通手紙を書かねば・・・ アカネと灯里さんに、真っ先に教えないとね。 「ゴンドラ通りま〜す!!」 灯里さんのよく通る声が水面を駆ける。 耳を澄まし ほかのゴンドラが来てないのを確かめる灯里さん。 ゴンドラの向きを変え、器用に細い水路に入る。 そっか。 水路の交差点とかでは『ゴンドラ通りま〜す!』って声を掛け合うんだ。 いろいろ吸収できるものは吸収しなくちゃね。 「あれ? アリア社長?」 「にゅっ!」 小さなゴンドラに乗ったアクア猫・アリア社長。 何やら手招きをしている。 そういえばさっき アリアカンパニーにはいなかったかも・・・ 「なんだかこっち来いっていってるみたい・・・だね。」 「昔のマンホームに伝わっていた 招き猫みたい・・・」 「うん、これは・・・行くしかないっしょ!」 時間的余裕なんてまるでなかった。 でも、無視しようなんて誰も言い出さなかった。 手招きの先へ行かなくちゃ・・・ 行かないと公開する・・・ そう 誰もが思ったから・・・ 「ぷいにゅ〜」 「どこまで行くんだろう・・・」 アリア社長の導くままにゴンドラは進んでいく。 やがて広い場所に出た。 ここはおそらくアクアの開拓時代の遺跡かなんかだろう・・・ そこに光る無数の目・・・ よく目を凝らすと 無数のにゃんこさんがこっちを見ている。 その中心にゴンドラを停めるアリア社長。 「にゅっ!」 『ここだよ』と言ってるみたい。 灯里さんもゴンドラを停める。 「あ・・・ ねぇ、二人とも社長の後ろ 見てください!」 「え? あれは・・・」 「おっきー 猫さんだ。」 そう・・・ 牛くらいはあるんじゃないかな? とにかく普通じゃない。 でっかいでっかいにゃんこさんです・・・って、なんのこっちゃ・・・ 「ケット・シーさん、二人に挨拶しに出てきてくれたんだよ。」 「ケット・シーって・・・あの?」 「・・・って、アカネ 知ってるの?」 以外にもこういうことには詳しかったアカネ・・・ 彼女と灯里さんの説明によれば、どうやら猫妖精さんらしい・・・ にゃんこさんの親玉・・・なのかな? ケット・シーさんが優しげな表情で歓迎のポーズをとる。 すると、無数のにゃんこさんたちが一斉にお辞儀する。 火星猫も、地球猫も、みんな一緒に・・・ 私たち3人も にゃんこさんたちに向かってお辞儀する。 『歓迎してくれてありがとう』の気持ちを込めて・・・ やがて、ケット・シーさんと無数のにゃんこさんたちは軽く挨拶して 去って行った・・・ あたりは 静寂に包まれた。 「ぷいにゅぷいにゅ〜!」 アリア社長が先導してくれるあとを追う私たち・・・ 遺跡から狭い水路を抜け 広い水路へと出た。 社長はいつの間にかまた消えていた。 「良かったですね、二人とも! なかなか見れないんですよ、猫の集会。」 「なんか、ラッキーかも・・・」 「そーだね。すんごい貴重な体験だね!」 余韻に浸ってる私たち・・・ 何か忘れてなかったっけ・・・・・・? 「あれ?灯里ちゃん、こんなとこでなにやってるのだ?」 「あ、ウッディーさん! この人たち、私のプリマデビューのお客さんですっ!」 風の妖精の名をつけられた《シルフ》のウッディーさん・・・ 宅配便みたいなお仕事で、エアバイクで飛び回ってるの。 やっぱり灯里さんのお友達、なんだって。 顔 広いなあ・・・ 「そうなんだ。・・・もしかしてマンホームからの修学旅行?」 「はい。そうですけど?」 「じゃあ、急いだ方がいいのだ。そろそろみんな集まってるのだ。」 「ぎゃーす!!」 アカネの絶叫! 私と灯里さんも顔を見合わせる。 「あ、ありがとうウッディーさんっ!!」 「じゃ、じゃあ、逆漕ぎいきますっ!!」 「気をつけて急ぐのだぁ!!」 心配そうなウッディーさんを残し、通常の3倍速で逆走する私たち・・・ 赤いゴンドラ・・・じゃないけど・・・(って、《古の赤き彗星伝説》じゃないって) 「じゃぁ、またね!!灯里さんっ!!」 「またね!亜沙里ちゃんっ アカネちゃんっ!!」 ホテルのほど近くに降ろしてもらった私とアカネ・・・ 急げや急げっ!! 集合場所まで全力疾走!! 結局、引率の先生に思い切りしかられた私たち・・・ でも、どうにかマンホーム行きには間に合った。 けど・・・・・・・ 何だか、忘れてるような・・・ 何だっけ・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!? 「ところで灯里ちゃん・・・ ちゃんと代金もらった?」 「はっ! す・すみません・・・・・」 「あらあらあら・・・」 灯里さん、ごめ〜〜〜〜んっ!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜おしまい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 あとがき なが〜い文章、最後までお読みいただき でっかいありがとうございます。 今回はヒロイン亜沙里ちゃんの立志伝みたいなエピソード・・・ どうしても欠かせない登場人物がいるんです。 水無灯里ちゃん、その人です。 最初から『灯里ちゃんに憧れてウンディーネになる女の子』として設定していたのです。 でも・・・ 灯里ちゃんを出すという事は・・・ 彼女、異様にお友達が多いんですよね? それをまったく出さないで彼女を描くことは無理でしょう。 で、練習仲間二人とアリシアさんは不可欠。 あかつきんも出した方が面白そう。 3大妖精、揃ったほうが良くない? 郵便屋さんは? ここまで来たら、ケット・シーも! ・・・などと膨らむばかり・・・ で、みんなキャラが立ってるから勝手に動く動く・・・ 結果、なかなか終わらないという事態に・・・ 私が書いた『短編』の中では一番のボリュームを誇る事態に・・・ 次回からはもっと短いと思います。 オールスターキャストというのも当分なさそうですし・・・ (灯里ちゃんは手紙でたまには出さないとおかしいですが) 最後に・・・ ここまで読みにくい文章をお読みいただいた皆さんに、最大限の『でっかいありがとう』を・・・ Queen's FREE World
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