(ARIA The ANIMATIONより・・・)
 その 素敵な人たちは・・・





 「こりゃ、灯里!」

 ぱこっ!

 「あてっ!」



 藍華にオールの柄で小突かれた灯里。

 叩かれた頭をさすっている。

 その姿を笑ってるように雪虫が灯里の周りをふわふわと飛んでいる。



 「ボーっとしてちゃ駄目だっていつも言ってるでしょ?

  アイちゃんも見てるんだから、しっかりしなさい!」


 「はひ〜」



 しっかり者の藍華・・・

 目移りしがちな灯里は、しばしば攻撃対象と化す。



 「・・・なんだか藍華さん、晃さんに似てきましたね・・・」

 「ぬなっ!?」



 アイの鋭い指摘。

 頷く灯里とアリス。



 「アイちゃんの言うとおりだね。 晃さんそっくり〜!」


 「アイちゃん、でっかい鋭いです。」


 「え〜〜、晃さんに似てるなんてぇ・・・

  どうせなら アリシアさんに似てるって言われたい〜〜〜!」


 「・・・でっかい無理です。」


 「・・・がっくし。」

 「あ、藍華さんが落ち込んでる・・・」




 いつもの合同練習。

 灯里、藍華、アリスのウンディーネ娘3人衆・・・

 そこに今日はちょっと珍しい見学客がいたのだ。


 マンホームからやってきた 灯里のメール友達 アイ。

 今日は彼女を交えての特別練習となった。




 「この辺は浅いし、水流も殆どないから初心者にも安心ね。」

 「入門用にでっかいうってつけです。」

 「しっかりね、アイちゃん!」

 「はい、頑張ります 灯里さん!」



 ゴンドラにすっくと立つアイ。

 ARIAカンパニーユニフォームのレプリカが 実によく似合っている。

 肩にちょこんと赤リボンの雪虫がとまっているのがアクセントとなっている。



 「はい、じゃあオール・・・」



 灯里にオールを手渡されたアイ・・・

 だが、大人用のオールは少々重すぎたようだ。 



 「はい・・・うわぁ・・・重い。」

 「だ、大丈夫!? アイちゃん!?」

 「おっとっととお・・・・根性だ根性〜〜!!」

 「でっかい危ないです!!」



 バランスを失うアイ。

 このままではゴンドラから落ちてしまう。

 あわてて手を差し伸べる灯里と藍華。

 だが、間に合いそうにない!

 危険を察知して雪虫も飛び立つ!



 「きゃあっ!?」

 「アイちゃんっ!!」

 「でっかいピンチです!!」

 「アリシアさん〜〜〜!!アイちゃんをたすけてぇ!!」



 ところが・・・

 次の瞬間灯里たちの耳に届いたのは アイの落ちた水音ではなかった。



 ずしゃあああ・・・・ごんっ! 

 何かが滑るような水音の後にゴンドラに何かが当たったような軽い衝撃。



 「ほへ?」

 「あ・・・・」

 「アテナさん・・・いつの間に・・・」

 「助かりましたぁ・・・・・・」



 アイが水面に落ちる寸前、アテナのゴンドラが急速スライディングしてきたのだ。

 そして、瞬間的に灯里のゴンドラに接舷!

 アイはそのままアテナのゴンドラへ倒れこんだのだった。

 ふんわりと頭の上に降り立つ雪虫・・・



 「間に合ってよかったわ・・・ アイちゃん、大丈夫ぅ?」

 「は、はい。アテナさん、ありがとう!!」



 水の3大妖精の一人・アテナ。

 普段は鈍そうに見えるほど行動がゆったりしている。

 その度合いは灯里をも上回るほどだ。


 だが、時折見せるスーパーテクニック!

 以前、アリスが自分ルール遂行中に 彼女を助けるため一度見せたことがあった。

 それ以来久々に見せたテクニックだったのだが・・・

 みんなアイに気をとられ、またアイ自身も必死だったため・・・

 だれもその瞬間を目にすることは出来なかった。



 「ほへ〜・・・アテナさん、どうしたんですか?」

 「ん、今日はお仕事お休みなのよ。」

 「でっかい不自然ですね。」

 「アイちゃん目当てなんじゃないんですか?」

 「!!」



 アテナの褐色の頬が微妙に赤みを増す。

 図星だったようだ。



 「アテナさん、子供が好きですもんね〜。」


 こくりと頷くアテナ。


 「ふむふむ・・・だからアテナさんは後輩ちゃんの世話を焼くんだわね!」

 「・・・でっかいお世話です。」



 藍華とアリスのそんなやり取りをスルーして、アテナが差し出したオール。

 小ぶりで短く、いかにも軽そうだ。



 「これならアイちゃんでも使えるんじゃないかな?」

 「あ、軽い!! これなら大丈夫です。アテナさんありがとう!!」

 「うん。どういたしまして。」



 自分に合ったオールを受け取り大喜びのアイ。

 それを見ているアテナも至福の表情を浮かべる。



 「ほへぇ〜、あんな小さなオール、あったんだぁ。」

 「子供用の遊戯用ゴンドラに使うオールを持ってくるとは・・・ 流石、気配り名人ね。」

 「でっかい侮れませんね、アテナ先輩。」



 オールを手に再びこぎ位置につくアイ。

 先ほど怖い思いをしたことなどもう忘れているようだ



 「じゃあ、行くよ!灯里さん!!」

 「うん! レッツラゴー!」

 「・・・・・・・・ありゃ?」

 「・・・・・・・・むむむ?」

 「アイちゃんすご〜い!・・・って、どうしたの二人とも・・・」



 ゴンドラを一所懸命漕ぐアイ。

 それに応えてゆるゆると動き出すゴンドラ・・・

 後ろ向きに・・・



 「灯里・・・あんたアイちゃんに逆漕ぎ教えたでしょ?」

 「でっかい逆漕ぎですね。」

 「あららら・・・・あははははは・・・・はひ〜〜〜〜」



 それは見事な逆漕ぎであった。

 それこそ、灯里のミニチュア版といった感じ・・・


 「え? 逆・・・でしたっけ。えへへっ!」



 舌をチョロッと出すアイ。

 その表情を見た瞬間、藍華とアリスは思った。

 これは確信犯だと・・・




 「逆でもいいじゃない。アイちゃん、本当にすごいわ。」

 「あ、ありがとうです、アテナさん!」

 「へ? いいんですか?」

 「でっかい 規則違反ですよ?」



 ニコニコ顔のアテナに藍華とアリスが問いかける。

 だが、アテナは笑顔のままで二人に語った・・・



 「いいんじゃない?

  最初は、ゴンドラのことを好きになる・・・ これが一番大事なこと・・・

  好きになって、いろいろと学んで・・・

  正しいやり方なんて、その途中でいくらでも見つけられるわ。

  最初からちゃんとやろうとして、かえって嫌いになっちゃったらもったいないでしょ?」



 アテナの一言に自分たちの子供の頃を思い出す藍華とアリス・・・



 「確かに・・・初めてのときは正しいフォームなんて考えてもみなかったわね。」


 「でっかい自己流で漕いでました。」


 「灯里ちゃんも マンホームで逆漕ぎで練習してたのよね?」


 「はひ! 思い切り逆でした。」


 「それでも・・・灯里ちゃんにとって、全てが無駄ではなかったでしょ?」


 「はひ! 力の入れ方とかは結局同じですし、筋肉だって鍛えられました。」


 「もし・・・逆だからって、アリシアちゃんが灯里ちゃんをきつく叱ってたら・・・

  全てを否定しちゃってたら、今の灯里ちゃん、なかったと思うの。

  正直、私が灯里ちゃんと同じくらいの頃はそこまで上手には漕げなかったわよ。

  私、最初はゴンドラが苦手だったけど、合同練習を始めてから変れたの。」



 オールを器用に操り、水面に投げ出された灯里のオールを手繰り寄せるアテナ。

 先端を大きく回すと、引っ掛けられて灯里のオールは水面から立ち上がる。

 それは以前見たアリシアのテクニックにも似ていた。

 

 「これもね、アリシアちゃんがボールとかをオールで器用に拾うのを見てて、

  やってみたくなったの。どうしてもね。

  晃ちゃんには散々言われちゃったけどね・・・

  『無駄だ。お前には出来ないしウンディーネに必要なテクニックじゃない』・・・って。

  でも、私にも何とかできるようになったら、晃ちゃんも必死に練習してたっけ・・・

  あのときの晃ちゃん、すごく楽しそうに見えたの。

  自分から楽しんだ人だけが 結局は大きく伸びるんじゃないかって思えたわ。」



 アテナの語る言の葉にじっと聞き入る後輩たち・・・

 その時、灯里とアイの胸に思い起こされたことがあった・・・

 それは、昨日のアリア社長への仕打ち・・・


 しきりにゴンドラ掃除を手伝いたがっていたアリア社長・・・

 しかし、灯里たちは彼に何もさせなかった・・・

 かえって手間が掛かるからと・・・


 でも、やらせてあげればその時は無駄でも、いつかはアリア社長だって・・・

 灯里たちのお手伝いをちゃんと出来るかもしれない。

 その芽を摘んでしまったような気がして、罪悪感を感じていた。



 「あ、灯里さん・・・」

 「うん・・・アリア社長に悪いことしちゃたね。」

 「とりあえず、あとで社長に謝らないと。」

 「そうだね。・・・まだまだだね、私も・・・」



 思い起こしてみたら・・・

 確かに大掃除のときは、アリア社長の手伝いを辞退していたが・・・

 ちゃんとそのあと 彼の前衛料理を生かしてちゃんと食べられるようにしていたアリシア・・・

 彼女は彼女なりにアリア社長のことをちゃんと気遣っていたのだ。


 灯里とて、気配りが苦手な子では決してない。

 むしろ、同年代の他の子に比べても思いやりや気配りは勝っているくらいだ。

 それでも今回、自分でも納得できない過ちを犯してしまった・・・



 「やっぱり、アテナさんってすごいよね。」

 「うん! 流石 気配り達人って言われるだけのことはあるよ、やっぱり。」

 「ぷぷいぷいにゅぷいにゅ!!」

 「はひっ!?」

 「あ、アリア社長・・・」



 いつの間にか灯里のゴンドラに乗っていたアリア社長。



 「あ、アリシアさんっ!!こんにちはっ!!」

 「あらあらあら、藍華ちゃん、こんにちは。」

 「こんにちはです。」

 「うふふ、こんにちは アリスちゃん。」



 いつもの笑顔・・・

 アリシアもやはりいつの間にか、合同練習の会場へ来ていたのだ。



 「うふふ、久しぶりね、アテナちゃん。」

 「うん。久しぶりね。」



 ただでさえアリスのほかにアイが一緒の練習会場。

 そこへ旧友のアリシアまで現れた。

 アテナにとってはこれほど嬉しいことは滅多になかった。

 彼女は相当浮かれているように思えた。



 「これは・・・アテナ先輩、でっかいピンチかもです。」

 「え?後輩ちゃん、そうなの?」

 「アテナ先輩は、浮かれるとドジっ子が最大限にパワーアップします。でっかい常識です。」

 「常識って・・・アリスちゃん・・・」

 「・・・常識・・・・なんですか・・・」




 自分のゴンドラから降りようとするアテナ・・・

 その時、オールにつまづいてしまった!


 「ああっ!?」

 「アテナさん!!」

 「あらあら・・・」

 「ぷいにゅ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」



 バランスを失い、顔面から接地しそうな勢いのアテナ。

 誰もが顔面ゴケを想像していた。

 その痛そうな瞬間を見ないで済むように目を伏せる一堂。

 ・・・アテナ本人と『もう一人』を除いて・・・


 派手な着地の音が一向に響かないのを不思議に思い、目を開ける一堂・・・

 すると、間一髪、アテナは転倒寸前で難を逃れていた。

 愛すべき後輩の『力』によって・・・



 「あ、ありがとう・・・アリスちゃん。」

 「ぐっ・・・・・・でっかい・・・重いです・・・」



 小さな体で必死にアテナの体を支えているアリス。

 幸い 長身の割にはスリムなアテナの体重はさほど重くはなかった。

 とはいえ、加速度がついた体を一気に支えるのはかなりの重労働だったはずだ。

 アリスの必死な形相がそれを物語る。



 どうにか自力で体勢を立て直すアテナ・・・

 肩の荷が下りてその場へへたれ込むアリス・・・



 「アリスちゃん、すごーい・・・」

 「アリスさん、何だか、さっきのアテナさんみたいですね・・・」

 「後輩ちゃん、恐るべし・・・」

 「あらあらあら・・・」

 「ぷぷぷいにゅ!にゅ!!」



 一同、アリスのファインプレイに目を見張った。

 当のアリスは集まる視線に戸惑う。



 「あ、アテナ先輩っ! で、でっかい迷惑ですからドジっ子禁止ですっ!!」

 「あ・・・うん。」

 「お〜お、照れてる照れてる。」

 「でっかいお世話ですっ!」




 精神的にまだ幼く、自己中心的にすら見える『青さ』が目に付いていたアリス・・・

 だが、そんな彼女にも著しい成長が見えてきた。

 他人を思いやる余裕・・・

 それは、いわずと知れた先輩アテナからの影響だろう。




 「灯里さん・・・やっぱり、アリスさんもアテナさんみたいになりたいって思ってたのかな?」


 「うん、そうだね。無意識のうちにアテナさんに憧れてたんだと思うよ。」



 「ぬなっ! 後輩ちゃんがこんなに成長してるなんて・・・

  まずいわっ!! ・・・悔しいけど操船技術は私たちより上なんだもん。

  このままじゃ、プリマに先になるのは後輩ちゃん・・・

  こりゃあ私達もうかうか出来ないわよ、灯里!!」


 「あ、藍華ちゃん・・・」


 「あらあらあら・・・」


 「ぷぷぷいにゅ、ぷいにゅ〜!」



 勝手に危機感で妄想を暴走させる藍華にアリア社長の冷静な突っ込み・・・

 『その前に、シングル昇格しないと駄目なんだけどね、アリスは』と言っているらしい・・・



 「うん、そうですね、アリア社長。 

  藍華ちゃん、落ち着いてぇ〜、まだアリスちゃんはペアなんだから〜」


 「ぬなっ? そ、それもそーね。わ、私としたことが・・・にゃははははは・・・」


 「・・・灯里さん、アリア社長の言葉、わかったのかなぁ・・・」


 
 灯里の一言でどうにか落ち着きを取り戻す藍華。

 だが、それも長くは続かなかった。

 このやり取りを聞いてか聞かずか アテナの一言・・・



 「そうね。もうそろそろね・・・ピクニック。」

 「ぬなっ!」


 アリスが昇格するのも目の前・・・

 自分たちの「優位点」が消え去る日も間もなくやってくる・・・

 現実を突きつけられた藍華はふたたびのショックを受けた。



 「藍華先輩?何をそんなに驚くのですか?・・・でっかい謎です。」

 「ぎゃーーす!」

 「あわわわわ・・・な、なんでもないよアリスちゃん。」

 「あらあらあら・・・うふふ」

 「先輩方、でっかい変ですね。・・・まあいいでしょう。特に悪いことではなさそうですし。」




 ウンディーネ界では ペアからシングルへの昇格試験方法は極秘にする慣わしがある。

 だが、そもそもどこからでも漏れそうな脆い秘密ともいえる。

 それゆえに、何としてでも守ろうと、先輩ウンディーネたちはずっと苦労を重ねてきたのであった。

 決してその昇格ピクニックの存在および経路を口外してはならない・・・

 これはウンディーネ界、水運業界に伝わる鉄の掟・・・

 今や灯里と藍華にも、その重責は重くのしかかっていたのだ。



 「ウンディーネも、結構大変なんですね、灯里さん。」

 「うん・・・そうだね、アイちゃん。」

 「・・・大変って思うポイントが何だかちょっとずれてる気もすっけどね・・・」

 「・・・変ですか?藍華さん。」

 「・・・まあ、いいけどね。」

 「あらあらあら・・・」



 うやむやのうちに、『ピクニック問題』も片付き、ふたたび和やかな空気が満ち溢れてきた。

 そのタイミングを見計らっていたアリシア・・・



 「それじゃあ、ちょっと休憩しましょ。

  うふふ、サンドイッチとか作ってきたわ。みんなで食べましょうね!」

 「わ〜ひ! アリシアさんのサンドイッチ〜!」

 「ぬなっ! 是非食べさせて下さい!」

 「あらあらあら」

 「でっかい楽しみです。」

 「うふふ。」

 「それなら、私、お茶入れるわね。」

 「ん、じゃあお願い、アテナちゃん。」

 「うん。」



 何と用意のいいことか!?

 アテナのゴンドラには茶器とカセットコンロ、ケトル、茶葉、砂糖、ミルク、レモン・・・

 一通りのものがしっかりと積み込まれていた。

 いつお茶会が始まっても大丈夫なようにちゃんと支度してあったのだ。



 「ほへ〜、アテナさんすごい・・・」

 「さすが、気配り達人の面目躍如だわね。」

 「うん。流石ですね。」



 お茶会の支度をするアテナをアリスも甲斐甲斐しく手伝う。


 「あっ・・・ああっ!・・・あ・・・ありがと。」

 「でっかいいつもの事です。」


 茶器を取り落としそうになるアテナをフォローして、事なきを得たりもしている。


 「いい加減 茶葉をこぼすのやめて下さいね。」

 「ごめんね・・・アリスちゃん・・・」


 こぼれた茶葉を手際よく拭き取るアリス。

 こぼすアテナとの連携は実に見事だ。



 「アテナさんって・・・こんなにそそっかしかったんだ。メールに書いてあった以上ですね。」

 「ちょっと灯里ぃ! 何 アテナさんはドジっ子で救いようがないなんて書いてるのよぉ!?」

 「藍華ちゃん・・・そこまで書いてないって。」

 「はう・・・・・・」


 アテナの肩ががっくりと落ちた。

 やはりアイに指摘され、藍華に「救いようがない」と言われたのがよほど応えたようだ。


 「アテナ先輩・・・落ち込んでないで、直す努力をすれば でっかい問題ないです。」

 「うん・・・本当にいつもごめんね・・・・・・あっ・・・」

 「はいはい。 これででっかい大丈夫ですから。」
 

 アテナが巻き起こすドジを見事に一つ一つフォローするアリス・・・

 おかげで、何事も起こっていないようにスムースにことは進んでいる。



 「ほへ〜・・・アリスちゃん、すごい・・・」


 「何だか、いいですね。灯里さん・・・」


 「うん。アリスちゃんとアテナさん・・・

  二人が出会ったのって きっと偶然なんかじゃないんだよ。

  二人で力をあわせてひとつになるための素敵な必然・・・

  きっと、生まれる前からの運命なんだね。」


 「まるで、ハマグリの貝殻みたいですね。

  初めっから ぴったり合うように生まれたんだ・・・

  ほかのものじゃ ぴったりとは合わないんだよね・・・。」


 「そうだね、アイちゃん。」


 「はいそこ!!二人とも 恥ずかしいセリフ禁止〜!!」


 「「ええーーーーーーーっ」」



 灯里とアイ・・・

 ふたりの「ええーーーっ」がハモったころ、お茶会の準備は完了していた。










 『灯里さん・・・』

 『うん。そうだね。そろそろ・・・』



 目で合図を交わすアイと灯里・・・  

 アリア社長の前に並んで立ち、揃って頭を下げる。 



 「ごめんなさい、アリア社長!」

 「ごめんね、アリア社長。」

 
 「ぷいにゅ〜?」



 『何のこと?』といった顔のアリア社長。

 目を丸くしている・・・(もともと丸いか(笑))

 首を傾げて二人をじっと見つめる。


 「昨日、せっかくのお手伝いの申し出をお断りしてしまって・・・」

 「悪気はなかったんだけど・・・本当にごめんなさい・・・」

 「ぷい・・・にゅ?」

 「あらあらあら・・・」



 覚えていなかったという感じのアリア社長。

 そんなことがあったんだという顔のアリシア。


 「ぷいにゅ、ぷいにゅっ!!」

 ぽんっ!!



 ピンと張った胸をぽんと叩くアリア社長。


 「うふふ・・・アリア社長、別に気になさってないんですね。」

 「にゅ!!」


 首を縦に振るアリア社長。



 「で、でも・・・本当に私たち・・・ごめんなさい!」

 「ごめんなさい、アリア社長・・・」



 なおも謝り続けようとする二人・・・

 そこへいきなり怒号が響く。



 「すわっ!!」



 「はひっ!?」

 「あ、晃さんっ!?」

 「ぷいにゅ!?」



 ビクッとなる『3人』・・・

 灯里たちの肩にいた雪虫も驚いて飛び上がり、再び肩へと舞い降りた。

 振り返った先に居た者は・・・

 晃ではなく藍華であった。



 「あらあら・・・うふふ。・・・よく似てたわ、藍華ちゃん。」

 「もぉ、藍華ちゃんったら・・・ビックリしたよぉ。」

 「ほんと、びっくりしたぁ・・・」

 「ぷぷいにゅ!」

 「そんなに似てたかなぁ・・・ ちょっと複雑。」



 真似をした割には、似てると言われたことが素直には喜べない藍華。

 まったく嬉しくなかったわけではない。

 でも・・・


 「アリシアさんに似てるって言われる方が嬉しいな。」

 「うふふふ・・・ 藍華ちゃん。それより晃ちゃんの真似した理由、あるんでしょ?」



 アリシアは、すべて見通したような余裕の表情を見せている。

 やはりこの人には勝てないな、と思う藍華・・・


 「え、あ、はい。 灯里!それにアイちゃん!」

 「はひっ!!」

 「はひっ!!」


 灯里につられてアイまで「はひ」と返事をしていた。


 「アリア社長がいいって言ったんだから、もういいんじゃないの?」

 「ええーーっ、でもぉ・・・」

 「すわっ!!」

 「はひっ!?」


 藍華から再び発せられた『すわっ』・・・

 灯里はピンと背筋を伸ばし、硬直した。

 その横でアイも同じ姿でフリーズ。



 「謙虚になるのもいいけどさ・・・

  相手が許してるのに真剣に謝り過ぎたら、かえって、謝られてる方が重荷に感じない?

  罪悪感を感じちゃうんじゃないかな?

  それより・・・これから気をつけるって約束すりゃあいいじゃん。・・・なんてね。

  晃さんなら・・・きっとこう言うから。」


 「ほへぇ・・・ 晃さんに言われてるような気分になっちゃった。」

 「でっかい そっくりでしたね。」

 「うん。晃ちゃんそっくりだった。」

 「あらあら・・・」

 「藍華さん・・・晃さん化しちゃったみたい・・・」

 「・・・甘いな。私の真似はまだ16年早いぞ、藍華。」

 「・・・?!」


 どさくさにまぎれて・・・

 よく聞き知った声が藍華の背後から聞こえてきた。

 振り返るとそこにはよく見知った顔・・・


 「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーすっ!!??」

 「あ、晃さん。」

 「でっかい本物です。」

 「うん。本物の晃ちゃんね。」

 「あらあら うふふ。」

 「あ、晃さん・・・いつの間に来たんですか!?」


 《本物》登場に大慌ての藍華。

 冬本番も近いというのに 冷や汗が背筋を冷やしていく。



 「結構前からな。・・・・・・藍華。」

 「にゃ、にゃんでしょっ」


 ビクッと全身が伸びる藍華。

 まさに、生きた心地がしないであろう。



 「この私を出し抜いて、おいしい所をかっさらおうとしても、そうはいかんぞ。

  ・・・それよりアイ、それに灯里。」



 急に名を呼ばれ、藍華同様にピンとした硬直をする灯里たち・・・



 「さっき藍華が私の真似で話した内容な、言い方は不十分だったが、結構当たってるぞ。」

 「はひ?」

 「え!?」


 「何事も、行き過ぎはよくないぞ。

  良かれと思った事でもな、かえって相手を縛り付ける場合があるものさ・・・

  悪気なんてものがこっちには無くても 結果的に相手の重荷になればかえって迷惑になる。

  案外難しいもんだよ、人付き合いっていうものはな・・・」



 アリシアがさらに付け足す。


 
 「そうね。晃ちゃんが言うとおりだと思うわ。

  相手のことを考えるのはとっても大切なことなの。

  でも、変に考えすぎて、かえって相手に気を使わせるのは気配りとは言えないわね。

  アテナちゃんはね、その辺の加減がとっても上手なのよ。」


 「ま、アテナの域に行くのは難しいだろーけどな。

  この晃様でもまだあいつには敵わない。それだけは認めるよ。

  でも、まあ少しは考えてみるべきだろーな、そんな事も。」




 晃とアリシアの助言・・・

 愛と灯里の胸に響いた。




 「・・・え? 私、何かした?・・・・ああっ!!

  ・・・ありがと。アリスちゃんのおかげでセーフね。」


 「アテナ先輩。セーフじゃないです。シュガーポット倒さないで下さい。」



 自分の名が出たことに気をとられ、またドジっ子発動したアテナを見事フォローするアリス。

 徐々に名人の域へと向かっているようにも思える。



 「ほへ〜・・・アリスちゃん、すごい・・・」

 「何だかまた素敵な発見をしたみたいですね、灯里さん。」

 「ぷいにゅ〜!」

 「はっ!?そうでした!・・・アリア社長っ!」

 「にゅ?」



 「なになに?」といった感じで灯里の声に耳を向けるアリア社長。

 アリシアと晃も見守っている。



 「これからは雑用とかも社長にお手伝いを頼むことがあるかも知れません。

  その時は、ぜひよろしくお願いします!」


 「ぷいにゅ〜〜!」




 思えば大掃除の時から、従業員に当てにされていない節があったアリア社長。

 ずっとそのことが寂しさを感じさせていた。

 それだけに、灯里の申し出は何より嬉しかった。

 全身で喜びを表現する。



 「ま、上出来だな。」

 「そうね、うふふ・・・」



 灯里たちを温かな目で見守る二人の先輩たち・・・

 その表情は満足げであった。



 「灯里ちゃんたちも、アリシアちゃんたちも、お茶が冷めないうちに召し上がりなさいな。」

 「アテナ先輩のでっかい言うとおりです。先輩方、早くお座りください。」



 アテナは、どうやらお茶がまずくならないように、ポットにお湯を注がずに待っていたようだ。

 話が長くなりそうなことを察知して・・・

 そして、さりげなくお湯を沸かしなおしていたアリス。

 以前の彼女を知っている者は、軽く違和感を感じるかもしれない。

 ここまで細やかな気遣いなど無縁であったのだから・・・



 「じゃあ、ご馳走になるわね。」

 「・・・さすがだな。ちゃんと人数分用意してある。」



 晃は、ここに来ることを事前には言わなかった。

 と言うより、たまたま通りかかって皆が集まってるのに気づいただけなのだ。

 それでも最初から用意されていたかのように、晃の分の茶器も茶菓子もちゃんと晃の席にあった。

 それ以前に、折りたたみチェアーもクッションも、ちゃんと人数分並んでいた。

 いつ追加したかも知られない程ごく自然に・・・



 「なあ、アリシア。アテナの気配り、なんだか最近さらにパワーアップしてないか?」

 「そうね。うふふ・・・ アリスちゃんのおかげもありそうね。」

 「ったく・・・ますます手がつけられないな、ヤツの気配り達人度は・・・」


 半ばあきれたような口調で呟く晃・・・

 彼女に認められるという事は、それ相応のレベルの高さを意味する。

 接客業である以上、ウンディーネには欠かせない気配りのテクニック。

 その中でもアテナのそれは、トップクラスである。

 それが更なる成長をしている・・・

 晃としても、素直に脱帽するしか出来なかった。


 「でも、晃ちゃんも変ったわよね。」

 「そうか?」

 「うん! 昔より笑顔が増えたし、とげとげしさがなくなってきたみたいね。」

 「すわっ! お前、私をとげとげしいヤツって思ってたのか!?」

 「うふふふ。」

 「すわっ! 『うふふ』禁止だ!」

 「あらあら・・・」

 「すわっ! 『あらあら』も禁止だ!」


 アリシアと晃がいつものやり取りをしている頃・・・

 藍華はひそかに ずもももと燃えていた。



 『後輩ちゃんも気配りや笑顔がだんだん板についてきてる。

  アテナさんと灯里っていういい先生がいるんだから当たり前ね。

  灯里も、だんだん操船技術がすごくなってきてる。

  アリシアさんに見てもらったり、後輩ちゃんのテクニックを真似したり・・・

  大体あいつ、もともと逆漕ぎだと後輩ちゃんに負けないテクニックなのよね。

  正しい漕ぎ方が身につけば、脅威になるのも当然・・・見くびってたわ。』


 大きな欠点が無い代わりに 突出したものを持たない藍華・・・

 内心焦りはあった。


 でも、足りない部分は努力で補えばいい。

 足りなければつけ足せば大丈夫。


 そんなポジティブ思考は晃から教わったこと・・・

 でもその晃に教えたのは幼き頃の藍華自身・・・


 『教えの輪っか』が一周した 小さな奇跡であった。




 『・・・負けないわよ、灯里、後輩ちゃん!

  私は3人の中でプリマに一番乗りさせてもらうからね!

  あんたたちも本気でかかってらっしゃい!』



 単なる仲良しグループだけではない。

 適度のライバル意識・・・

 これはかつての晃たち3大妖精の合同練習でも見られたもの。

 今、その歴史は繰り返されていた・・・



 「灯里さん。」


 「うん?なぁに、アイちゃん。」


 「何だか素敵ですね。みんなでいろいろ教えあって、みんなで一緒に伸びていくの。」


 「うん。そうだね。

  でも、私はまだまだ他の人から教わってばかりだなぁ・・・

  もっと頑張らないといけないね!」


 「ぷいにゅ〜ぃ!」


 『頑張れよ、灯里!』とばかりに肩をポンと叩くアリア社長。

 何だか本当に社長らしく見える。



 「はひ! 頑張ります、アリア社長!」

 「にゅ!」

 「あらあら・・・」


 しかし、アリシアも、晃も、そしてアイも・・・

 灯里が決して《教わってばかりの存在》だなんて思っていなかった。

 アリシアも、晃も、アイも・・・

 そして、藍華もアリスも そして接する機会の少ないアテナでさえも・・・ 

 灯里から学ぶところも決して小さくはないのだ。



 灯里の横顔を熱く見つめるアイ・・・



 『いろんな人と会って、お話して・・・私、思ったんだ。

  みんな、すごい人たちだなぁって・・・

  でもね、やっぱり・・・

  今でもね・・・

  私にとって一番なのは、灯里さんなんだよ。

  きっと、ず〜っと 変んないと思うよ。』


 「ほへ? アイちゃん、どうしたの そんなに見つめちゃって・・・」


 アイの熱い視線に灯里の頬が赤く染まった。


 「ん、なんでもないです。」

 「・・・変なアイちゃん。」


 再び灯里の横顔をじっと見つめるアイ・・・



 『やっぱり灯里さん、キレイだし、かわいいなぁ・・・

  私も・・・灯里さんみたいに素敵になれればいいのになぁ・・・』








 雪虫の群れが街角を舞っているのが見える。

 一足先に街へと訪れていた灯里とアイの雪虫・・・



 「おまいさんたちの仲間も街へ来たね。」

 「灯里さん、いよいよ本格的な冬が来るんですよね。」

 「うん。・・・今年は雪、たくさん降るのかな・・・」



 本格的な冬の訪れは もう目の前であった・・・




            〜〜〜〜〜〜 おわり 〜〜〜〜〜〜〜

 今回は前回の続きです。
 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、前回のやり残しをフォローしています。
 実は、アリア社長の扱いがひどいという貴重なご意見がありました。
 読み返してみると、確かにそう思えますね。
 そこで、むしろそれを題材にしてみようと考えました。
 灯里ちゃんたちが反省するという形で・・・
 でっかい大変でした。
 ちなみに基本的にはアニメの設定に準じた設定を用いています。
 ただし、一部原作の(しかも単行本9巻までに収録されていない話まで)設定を使いました。
 あまりにいいお話だったので、単行本に先駆けて設定を利用してしまいました。
 (晃さんと藍華ちゃんのエピソード)
 さて、いまだにアイちゃんがマンホームには戻っていません。
 雪虫もまだ灯里ちゃんたちのところにいます。
 次回、どうなることやら・・・ 


背景素材:Queen's FREE World 様


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