(ARIA The ANIMATIONより・・・)
 その 小さなお友達へ・・・





 「じゃあ、よろしくお願いしますね。」



 受話器を置くアリシア。

 今日もご機嫌 天使の笑顔・・・



 「灯里ちゃん。運送屋さん、9時ごろ見えるわよ。」

 「はひ。じゃあそれまでに準備しときますね。」

 「うん。 頼むわね、うふふ。」




 今日は灯里の練習ゴンドラ陸揚げの日。

 日ごろゴンドラに取り付いた汚れを落とす大切な作業だ。

 特に灯里のゴンドラは先ごろ新調されたばかり・・・

 ピカピカのボディーはちょっとした汚れも目立つものだ。

 念入りな手入れが必要と言えるだろう。




 秋と年末の観光シーズンの狭間・・・

 まもなく訪れる本格的な冬の前・・・

 それほど忙しくない今こそがちょうどチャンスなのだ。





 「じゃあ、灯里ちゃん。私は行ってくるわ。あとは頼んだわよ。」

 「はひ。いってらっしゃ〜い!」



 笑顔でアリシアを送り出す灯里。

 しかし、ゴンドラに乗り込もうとしていたアリシアがは、不意に灯里に声をかける。




 「そうだ、灯里ちゃん。あとでちょっと驚くことがあるかも知れないわ。」


 「はひ? 何ですか、<驚くこと>って・・・」


 「うふふ・・・ナイショよ。」



 アリシアは何かを隠している。

 それが何かは灯里にはわからなかったが・・・



 「ええーーーーーっ?」


 「あらあら・・・うふふ。

  そうだ。悪いけど暖炉の焚き木も拾ってきてくれないかしら?」


 「はひ。もうそろそろ暖炉を使いますもんね。でも・・・一人でできるかな?」


 「一人で・・・そうね。 うふふ、無理はしなくてもいいわ。」


 「ほへ?」

 「じゃあ、頼むわね、灯里ちゃん。」



 やはり何か隠している。

 いったい何を・・・

 灯里の胸に疑問を残したまま、アリシアは出かけていった。

 首をかしげる灯里・・・



 「何でしょうね、アリア社長。」

 「ぷいにゅ。」

 「・・・はっ!? もしかして、アリア社長。何か知ってるんですか!?」

 「にゅ。」

 「はわわ〜〜〜 知らないのは私だけ? ほへ〜〜〜〜・・・・・」

 「にゅ、ぷぷいぷいにゅ!」



 しゃがみ込んでガクッと落ちた灯里の肩に手(?)を添えるアリア社長。

 まるで、「落ち込むなよ」って言ってるみたい・・・



 「まいどあり〜!海猫運送です。」

 「あ、運送屋さん。じゃあ、よろしくお願いします。」


 気を取り直し、笑顔で運送屋にお辞儀する灯里。

 

 「そんじゃあ始めまーす。」



 灯里のゴンドラにロープをかける運送屋。

 しっかりと結びつけ、結び目を確認する。



 「よし、大丈夫!」

 「はひ、お願いします!」

 「では、行きます!」



 スロットルを開き、舞い上がるエアトラック。

 ロープがピンと張り、水しぶきが踊る。

 そして、ふんわりと浮かび上がり始めるゴンドラ・・・



 「うわぁ・・・・・・・」



 真っ青な空、輝く太陽・・・

 黒光りするゴンドラは舞い上がっていく・・・

 きらめく無数の水滴を生み出しながら・・・

 灯里は言葉を失い、ただ見とれていた。



 「キレイ・・・・・・・・・」

 「はい! まるで、ゴンドラさんからたくさんの宝石が零れ落ちてるみたいですね、灯里さん。」

 「ほへっ!?・・・なんか今 アイちゃんの声が聞こえたような・・・」



 ポカーンと口をあけたままの灯里・・・

 目の前にぴょんっと飛び出す小さくて元気な影。

 赤いリボンがショートカットヘアによく似合っている。





 「灯里さん!また、来ちゃいました!」

 「ええーーーっ!? アイちゃん!?」

 「ぷいにゅ〜!」



 「ビックリした?」と言わんばかりのアリア社長だが、言うまでもなかった。

 想定外、予想外の小さな訪問者に灯里はしばし固まっていた。



 「何で、アイちゃんここにいるの?」

 「はい! 学校がお休みなんで、来ちゃいました!」

 「そうなんだ。よく来たね、アイちゃん!」



 灯里に眩しい笑顔が浮かぶ。

 アイは思った。

 『灯里さんのこの笑顔が見たい、それだけで来ちゃったんだよ』って・・・



 「アイちゃん、今日はゴンドラさんのお掃除する日なんだよ。」

 「はい。アリシアさんもそう言ってたから、お手伝いしたくて今日来ちゃいました!」



 先ほどは驚いていたので気づかなかったが、アイは着ていた。

 以前ARIAカンパニーへお泊りした日の特製制服を・・・

 おそらくマンホームの自宅で若干の寸法直しをしたのであろう。

 少し成長した彼女の体にぴったりとフィットしていた。

 まるで、灯里のミニチュア版のような佇まい・・・



 「ほへぇ〜〜〜〜 アイちゃん、制服似合ってるねー・・・」

 「灯里さん・・・ありがとうございます!!」



 ほんのり薄紅に染まる頬・・・

 目の前にいる愛らしい妹分に目を細める灯里・・・



 「・・・・・・灯里さん?」

 「ほへ?」

 「また、この間みたいに灯里さんニコニコしてた・・・」

 「ん、アイちゃんが可愛いから つい見とれちゃった・・・」

 「あ、ありがとう!灯里さん。」



 灯里に誉められたアイ・・・

 誰よりも、灯里に誉められるのが一番嬉しい。

 顔に流れる汗が瞬間的に蒸発していく・・・そんな感覚を覚えていた。



 「ぷぷいぷいにゅ、ぷいにゅ!!」

 「はっ!? アリア社長!?」

 「アリア社長・・・・・・?」



 一向に見詰め合い 作業を始めようとしない灯里たちに痺れを切らしたのだろうか?

 アリア社長がゴンドラに水をかけ始めた。



 「アリア社長、働き者ですね〜。」

 「アリア社長、すみません。あとは私たちがやります。」

 「ぷいにゅ〜い」


 あわててアリア社長からホースを(半ば強引に)受け取る灯里。

 不思議そうな顔のアイ。


 「アリア社長、何だかまだやりたそうだよ?」

 「ううん、社長にやらせるなんて滅相ないですから!」


 そして、アイに耳打ちでこう付け加えた。



 「それにね、かえってあとが大変なんだ。」

 「そう・・・なんだ。」



 以前、大掃除のときも、アリア社長が張り切って手伝ったのだが・・・

 かえって作業量が増え、灯里とアリシアの疲労が倍増した事があったのだ。

 それ以来、灯里もアリシアも、アリア社長には掃除のような作業はさせないようにしていた。

 二度手間を避けるために・・・



 ちょっと不服そうなアリア社長。

 だが、そこへタイミングよくやってきた小さな珍客。

 以前アリア社長がいじけていたときに知り合った小鳥さんだ。



 「ぷいにゅ!ぷいにゅ!」

 「ぴぴぴぴ ぴぴぴぴ・・・・」

 「にゅ!」

 「ぴぴ ぴぴぴ!」



 会話が成立してるやらしていないやら・・・

 小鳥さんが飛びたち、アリア社長がその後をついていった。



 「お出かけですか?アリア社長。」

 「にゅぃ!」

 「行ってらっしゃ〜い、アリア社長。」



 アリア社長は片手で挨拶をして、去っていった。

 たぶん夕ご飯までには帰ってくるだろう。




 「では、ありがとうございました、運送屋さん!」

 「また今度もごひいきにー!」



 エアトラックは飛び去って行った・・・





 「じゃあ、作業開始!」

 「はい!灯里さん!」



 最初はゴンドラに取り付いた貝類などを剥がす作業。

 灯里はアイにへらを渡す。


 「何ですか?これは。」

 「ん、これはね、へらだよ。アサ貝っていう貝を剥がすんだ。」

 「へぇ〜、これで剥がすんですね。」



 ゴンドラの底に目を向けると・・・

 びっしりとアサ貝が張り付いている。

 まるで小さな城壁のように・・・




 「結構たくさん付いてますね。」

 「うん。結構力入れないと取れないよね。手、気をつけてね。」

 「はい!」



 二人でゴンドラをごしごしごしごし・・・

 ぽろぽろと落ちるアサ貝。



 「わ〜〜〜、おっもしろ〜〜い!」

 「すごいでしょ、アイちゃん。」

 「はい!面白いように良く取れますね!」

 「アイちゃん、上手上手!」



 徐々に本来の美しい地肌が顔を出す。



 「きれいになりましたね、灯里さん。」

 「うん。アイちゃんが頑張ってくれたから、すごく早いね。」



 さらに石鹸で洗い、ホースから水を出して洗い流す。

 ホースの先からほとばしる水!

 飛沫が七色の輝きに彩られる。



 「ねえ、見てみてアイちゃん。」

 「わあ〜〜〜〜、虹ですね、灯里さん!」


 ホースの水をゴンドラにかけ、汚れや洗剤などを洗い流す。

 洗い始める前とはもはや別のゴンドラと思えるほど奇麗になっている。



 「ゴンドラさん、喜んでるみたいだね。」

 「はい、気持ちよさそうですねぇ、灯里さん・・・」



 流れ落ちた油分が水溜りに色鮮やかな紋様を描いていく。

 陽射しの中 七色に輝く紋様・・・



 「アイちゃんアイちゃん、見てみて。」

 「何ですか、灯里さん。」



 水溜りを指差す灯里。

 輝く紋様に目を奪われるアイ。



 「わ〜、奇麗・・・」

 「うん、まるでさっきの虹がこの水溜りに落ちたみたいだよね。」

 「灯里さん、ナイスです! 確かにそう見えるよ!!」

 「よかったぁ。去年藍華ちゃんに恥かしいセリフだって言われちゃったんだよ。」

 「別に恥かしくないのになぁ・・・ 藍華さんって・・・意地悪なのかなぁ・・・」







 その頃・・・

 姫屋の一室。

 晃と藍華がくるみパンを一緒に食べていたが・・・


 「へくしょい!」

 「・・・藍華。風邪か?」

 「ん、昨日寒かったから 引いちゃったみたいですね。」

 「・・・さっさと寝ろ。」

 「・・・はい。」



 あまりにパターンどおりのリアクションをしていたようだ・・・








 「じゃあ、ワックスをゴンドラに塗るよ!」

 「わ〜、これをゴンドラさんにヌリヌリするんですね。」

 「うん。これはアリシアさんの特製なんだよ。」

 「そうなんだぁ。 アリシアさんってすごいんだね。」



 灯里の先輩にして かのグランドマザーの正等後継者・アリシア・・・

 灯里にとって尊敬に値する偉大なる先輩だ。



 「本当にすごい人なんだよ、アリシアさんって。」

 「そうですね。でも・・・灯里さんだってすごいよ。」

 「ううん、私なんてまだまだだよ。」

 「私にとって、一番のウンディーネって灯里さんだよ。」

 「ありがとう、アイちゃん。」




 などと話しながら、ゴンドラにワックスとすべりオイルは塗られていく。

 みるみるツヤツヤピカピカになっていくゴンドラ。




 「わ〜〜、本当に綺麗です。灯里さん・・・」


 「うん。また新しく生まれ変わったみたい・・・

  初めてこのゴンドラさんに会ったときを思い出すなぁ・・・」




 灯里にとって2隻目となるこのゴンドラ・・・

 最初のゴンドラへの思い入れがあまりに深かった灯里・・・

 はじめは新しいゴンドラとうまくやっていけるか、若干の不安はあった。

 しかし、すぐに打ち解けていった。

 今や彼女にとっては体の一部とも言える大切な存在だ。




 「そうだ、アイちゃん。まだこのゴンドラ乗ってなかったよね。

  薪拾い行くんだけど、一緒に行く?」


 「ええ? 本当!? うれしい〜〜!!  お手伝いさせてください!」



 小さな体全体で喜びを表すアイ。

 灯里はそんなアイを見ているだけで自分も幸福の絶頂へと向かっていく。




  『アイちゃん あんなに喜んでる。よかったぁ・・・』


 「あ、また灯里さんがニコニコしている・・・」


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 「気持ちいいですね、灯里さん。」

 「うん。ピッカピカのゴンドラで漕ぎ出すのってすごく気持ちいいよ。」

 「わ〜、灯里さんと私、ゴンドラさんに映ってるよ。青空と一緒に。」

 「ホントピカピカだよね。アイちゃんがすごく頑張ったから。」



 灯里に誉められ訪れる至上の歓び・・・

 今日はなんて素敵なんだろう。

 アイは天にも昇りそうな気分であった。







 「ここで拾うんだよ。」


 小さな島にゴンドラを寄せる灯里。


 一緒に降りたアイの目に映る一面の草原。

 夏の緑から黄色味を帯び 秋から冬への移ろいを感じさせる。



 「うわ〜〜 灯里さん、とっても広くて気持ちいいですね〜。」

 「うん。私もアリシアさんに連れてきてもらったときに、おんなじように感じたんだ。」

 「私と灯里さん・・・何だか似てるかもしれないですね。」

 「アイちゃんと似てるんなら、すごく素敵だね〜。何だか嬉しいなぁ。」

 「ううん、灯里さんに似てるから私も素敵なのかもって思うよ。」

 「・・・じゃあ、二人とも素敵なのかもね。」

 「そうですね。」



 藍華がここにいたら、さぞ突っ込みたかったことであろう。

 素敵過ぎる《姉妹》たちの幸せいっぱいなひと時・・・

 そして、さらに彩を添える訪問者がアイの手元にそっととまった。



 「あ、灯里さん・・・これ・・・」



 白くてぽわぽわした丸い物体・・・

 アリア社長・・・ではなかった。

 はるかに小さく、ボールのように丸い体・・・

 雪のように真っ白な綿毛・・・

 体に比して細長い羽を持つ。

 小さくつぶらな瞳を持っている。



 「あ、もう今年も雪虫さんの季節なんだ・・・」

 「え? 雪虫って・・・もっと小さくなかったかな?」

 「うん。マンホームのはね。 アクアの雪虫さんは大きくって長生きなんだって。」

 「そうなんだぁ・・・ 何だか可愛いですね・・・」



 何匹かの雪虫が灯里とアイの周りを飛び回る・・・

 ふんわりふわふわ 浮かんでいる・・・

 その幻想的な風景に 目を奪われる二人・・・




 「雪虫はね、冬になると現れるんだ。

  この辺に現れて、やがて街にも来るんだよ。」


 「え? ネオ・ヴェネツィアの街に来るんですか? 見たかったなあ・・・」



 アイは今回2泊ほどの予定しかなかった。

 自分のいる間に雪虫が街へと来るかどうかはわからなかった。



 「でも、雪虫さんが来たらもう本格的な冬が来るという合図なんだよ。」

 「本格的な・・・冬?」

 「うん。マンホームでは味わえないような《本当の寒さ》を味わえるよ。」



 灯里の言う《本当の寒さ》・・・

 マンホームは全自動気候制御で安定した気候を保っている。

 だが、アクアは敢えて人の手による《手作りの気候》を残している。

 熱さも寒さも、マンホームとは比較にならないくらい厳しい。


 「灯里さんも最初大変だったって、メールで言ってたよね・・・」

 「うん。やっと慣れてきたけどね。」

 「もしかして、今日は温かい方・・・なんですか?」

 「うん。今日はすごく温かかったから、ゴンドラ洗うの気持ちよかったよ。」

 「じゃあ、前、年越しで来たときは?」

 「あの時もそんなに寒くなくてよかったって、アリシアさんが言ってたよ。」

 「そうなんだ・・・う〜〜〜〜・・・」



 灯里と会えて嬉しくて・・・

 ゴンドラを洗えて楽しくて・・・

 それでも結構寒さが身にしみていたアイ。



 意地っ張りで強がりの面もあるまだまだお子ちゃまのアイは、相当我慢していた。

 灯里に寒がりと思われたくないから・・・

 これくらいの寒さは大丈夫!!

 だって、アイ、アクアが大好きだから・・・

 そんなアイの努力と根性がガラガラと崩れ落ちそうであった・・・



 「大丈夫だよ。だんだん慣れていくから。

  私も去年よりずっとへっちゃらになっちゃたもん!」


 「う、うん。大丈夫だよね。 ・・・根性だ根性〜〜!!」


 「ほへ? アイちゃん・・・?」



 妙な気合の入れ方に首をかしげる灯里。

 アイはニッコリ笑って・・・



 「マンホームの学校で最近はやってるんです、この掛け声。

  テレビアニメで、主人公のカズミンが頑張ろうっていうときに使う口癖なんだ。

  学校のお友達には、アイの声ってカズミンに似てるってよく言われるんです。」
 

 「へぇ、カズミンかぁ。 きっと、がんばり屋さんなんだね。」

 「うん! でっかいがんばり屋さんなんだよ。灯里さんみたいに。」

 「・・・アイちゃんみたいに。」

 「・・・・・・恥ずかしいセリフ・・・」

 「・・・・・・禁止!」


 そのあと二人で大笑い。

 なかなかこんなに笑うチャンスなんてないから・・・

 そんな二人を雪虫たちは見守っていた・・・




 「じゃあ、薪拾い レッツラゴー!!」

 「はい、頑張ります!!」

 「うん。それじゃあ、せ〜の〜・・・」

 「「根性だ根性!!」」

 


 二人の《根性》がひとつになった・・・




 ミッション開始!

 目標:時間内になるべく沢山の薪を拾うこと。

 なお、制限時間は適当に・・・(笑)











 「結構いっぱい拾えました。」

 「アイちゃん、また頑張ったね! 重くない?」

 「ちょっと重いけどぉ・・・大丈夫。」

 「じゃあ、ちょっと座って休もうね。」



 薪を下ろし、草むらに腰を下ろす二人・・・

 ちょっとチクチクするがやけに気持ちいい感触・・・

 草の匂いが鼻をくすぐる・・・



 「なんだか落ち着きますね・・・」


 「うん。マンホームにも、昔はこんな場所、いっぱいあったんだよね。」


 「なんで人間って、こんないい場所をなくしちゃうんでしょうね・・・」


 「う〜ん・・・ でも、なくしちゃいけないって気づいた人もいっぱいいるんだよ。

 だから、今ここにアクアが在って、私達はここにいるんだから・・・」


 「そうですね。アクアはずっと素敵なままであって欲しいなぁ。」



 人々の思いを形にした惑星・アクア・・・

 多くの人たちの夢が詰まっている掛替えのない 理想郷に一番近い星・・・

 これからも大切にしようと決意を新たにした灯里であった。



 「あれれ? 灯里さん、灯里さん!」

 「ほへ?なあに、アイちゃん。」

 「ゆ、雪虫さんが・・・」

 「あらら、アイちゃんに懐いてるね。」



 アイの周りをふわふわと飛び回る一匹の雪虫。

 そっと手を伸ばすと、手のひらにふんわりと舞い降りた。



 「うわ〜、近くで見ると、すごく可愛いですね。」


 「うん。そういえば去年ね、アイちゃんと同じように私も雪虫に懐かれちゃったんだよ。」


 「へぇ〜、灯里さんもなんだ。」


 「うん。やっぱり同じようにふわふわと周りを飛んで、ついてきて・・・

  赤いリボンをつけてあげて可愛がってたんだよ。」


 「赤いリボン・・・すごく似合いそうですね、あ、こんな感じ・・・・・・・・え?」

 「・・・・・あ・・・・・・・・・」



 灯里と愛の目の前二分bんわり舞い降りてきた雪虫・・・

 頭には赤いリボンが結び付けてあった。

 そのリボン・・・灯里には見覚えがあった。



 「去年の雪虫さんだ!」

 「やっぱり、この雪虫さんが灯里さんの・・・」

 「うん。間違いないよ。・・・・・・また、会えたね・・・」


 灯里が差し出す掌にちょこんと乗っかるリボンの雪虫・・・

 いとおしそうにそっと頬を寄せる灯里・・・

 

 「お帰りなさい・・・私の雪虫さん・・・」

 「灯里さん・・・良かったですね・・・・・・・・・・・」



 灯里の瞳から温かいものが零れ落ちる。

 もらい泣きのアイ・・・









 気づくと、アイに懐いている雪虫が《灯里の雪虫》のそばを飛び回っている。




 「灯里さん・・・この雪虫さんたち、仲良しなのかな?」

 「うん。きっとそうだよ。 ・・・そうだ! アイちゃん。何か紐とか持ってる?」

 「はい。赤い毛糸を少しなら・・・」

 「じゃあ、この子にもつけてあげようか、おリボン。」

 「あ・・・素敵です、灯里さん!」



 アイの掌にとまる、《アイの雪虫》。

 灯里はアイからもらった毛糸を雪虫の頭に括り付ける。

 アイの頭についているリボンと同じ結び方で・・・



 「はい! アイちゃんとおそろいだよ。」

 「うわー! ありがとう!! よかったね、雪虫さん。」



 喜びを表わすようにくるくる輪を描いて飛び回る2匹の雪虫・・・

 灯里とアイはしばし見とれていた。






 それぞれの雪虫を従えて、再びミッション再開。

 ゴンドラにかなりの量の薪を積み込むことが出来た。

 これで、ミッションコンプリートだ。



 「じゃあ、そろそろ帰ろうか アイちゃん。」

 「うん。じゃあ、ARIAカンパニーへしゅっぱ〜つ!!」



 2人と2匹を乗せて ゴンドラは水面を滑り始める。

 もう、かなり日が傾いていた。



 「日が落ちると寒くなるから、急ぐよ。」

 「はい! 逆漕ぎですね!」

 「うん。」



 アイが初めてアクアへやってきたとき・・・

 灯里が披露してくれた逆漕ぎ・・・

 それまでのゴンドラのイメージをがらっと変えた力強い航行・・・

 アイはあっというまに魅了されていたのだった。



 ぐんぐん進む灯里のゴンドラ。

 まるで時を翔るように水面を翔けていく・・・





 「あ、もうARIAカンパニーがあんな近くに・・・」

 「間もなく到着で〜す!」

 「あ、白いゴンドラ・・・」

 「アリシアさん、もう帰ってきてるんだ。 飛ばすよ、アイちゃん!」

 「はい!!」



 マックススピード・マックスパワーの逆漕ぎマックスモード!

 更なる加速に胸躍らせるアイ。





 「すごい・・・ 灯里さん! 私たち、風になったみたいです。」




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 「ただいま〜、アリシアさん!」


 「アリシアさん、ただいまです。」


 「あらあら 灯里ちゃんにアイちゃん、お帰りなさい。

  うふふ・・・ 灯里ちゃん、ビックリしたでしょ?」



 以前にも使われた手法・・・

 アリシアはアイが来ることを伏せていた。

 灯里をビックリさせるため。

 その方がより大きな再会の喜びを感じられるだろうから・・・




 「はひ! アリシアさん、人が悪いですね。」

 「うふふ・・・・・・あら?灯里ちゃん・・・・・?」

 「あ、アリシアさんがビックリしてます。」



 アリシアの目に留まったもの・・・

 それは、あの赤いリボンの雪虫だった。



 「はひ! あのときの雪虫さんです。」

 「あらあらあら・・・ また会えたのね・・・」

 「それだけじゃないんですよ、アリシアさん! ほら!!」



 アリシアの目の前にすっと出されたアイのちっちゃい手。

 その上にちょこんとお澄まししてとまっている《アイの雪虫》。



 「まあ、アイちゃんにも懐いてるのね。」

 「はい。 ・・・・この2匹、すごい仲良しさんなんですよ!」

 「まぁ・・・・・あらあらあら・・・・・」



 もつれるように絡まるように飛び回る2匹の雪虫。

 灯里とアイの周りをくるくると舞い踊る。

 その姿は、まさに冬の使者と言った趣を感じさせる。



 「本当に仲良しさんね。 うふふ、まるで灯里ちゃんとアイちゃんみたいね。」

 「!!」



 顔を見合わせる灯里とアイ。

 頬がうっすらと赤く変っていく。



 「はひ!私達も仲良しです。 ね! アイちゃん!」

 「はい。でっかい仲良しですよね、灯里さん。」


 「それにしても・・・もう雪虫の季節なのね・・・

  暖炉、さっそく使ってみましょうね。

  焚き木、たくさんとってきてくれたみたいだし。」


 「ぷいにゅ〜〜!」

 「あ、アリア社長・・・暖炉って聞いたら目を覚ましましたね!」

 「寒がりさんだからね、アリア社長は。」

 「にゅ!」

 「・・・寒がりなの自慢してますよ、灯里さん・・・」

 「あらら・・・」

 「あらあらあらあら・・・」




 3人と一匹で暖炉の支度をする。

 アリア社長は薪を数本運んだだけであるが・・・

 と言うより正しくは、灯里たちがそれだけしかさせなかったのであるが・・・

 それはさておき、暖炉は無事セッティングされた。



 焚き木の下に敷かれた燃えやすい草・・・

 アリシアがマッチで火をつけると、メラメラと燃え上がる。

 やがて焚き木に燃え移り 大きな炎となっていく。

 オレンジ色のやわらかな光を放ちながら・・・



 「いつ見てもキレイですねぇ・・・・」

 「うふふ・・・マンホームにはあまりないんだったわね、暖炉。」

 「はい。去年、ARIAカンパニーで初めて見ました。」

 「私もマンホームではセントラルヒーティングだったなぁ・・・」

 「本物の火って、あたたかいでしょ?!」

 「はひ!!」

 「すごく温かいです。」



 パチパチと音を立てて燃え盛る暖炉・・・

 部屋全体を茜色に彩る。

 アイと灯里の頬もまっかっか・・・


 暖炉の暖かさに再び眠ってしまったアリア社長・・・

 クッションに座ったアイも・・・灯里も・・・



 「あらあら・・・うふふ・・・風邪、引いちゃうわよ。」



 アリシアは二人を起こさないようにそっと毛布をかける。

 アイも灯里も素晴らしく素敵な寝顔だ。



 「あらあら・・・よほど幸せな夢見てるのね。 

  夕ごはんまでもう少し寝てていいわよ・・・」



 二人の眠り姫に寄り添う雪虫たち・・・

 つかの間の幸福な静寂にアリシアの胸も満たされていた・・・


                        〜〜〜つづく〜〜〜


 今回は完全にアニメ版前提です。
 何しろ、アイちゃんが主役ですから。
 まさかアイちゃんに あるセリフが言わせたかったなんてとても言えません(w
 今回は登場キャラが少なかったのですが、あくまでも今回は前編。
 後編に当たる次回作でアリスちゃん、藍華ちゃんも出る予定です。
 アイちゃんだって、みんなに会いたいでしょうし。
 いろいろあって、書く速度が前にも増してノロくなってます。
 次回作も遅くなると思います。
 気長にお待ちいただければ幸いです。
 ではまた・・・
 


背景素材:Queen's FREE World 様


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