その お泊りの夜に・・・




 その日は、藍華は姫屋の社内パーティーに出席で、灯里とアリスは二人きり・・・

 いつもの合同練習を行っていた。



 「灯里先輩!こういうときは、こうやってこう脇を締めて・・・」

 「え?えっと、こう?」

 「少し違います。・・・こうやって、こうです。」

 「ええーーーー・・・」



 言われたとおりに脇を締めようとするが、いまいち要領がつかめない灯里。

 アリスは灯里に手取り足取り正しいフォームをとらせる。

 

 「このままの体勢で漕いでみてください。」

 「うん! ・・・こうかなぁ?」

 「そうです! ほら、少し速度が上がったと思いますよ?」

 「本当・・・風をいつもより感じる・・・ すごーい、アリスちゃん。ありがとうっ!!」



 灯里に誉められ、頬を薄紅色に染めるアリス。

 彼女は灯里や藍華より格下の《両手袋》である。

 とはいえ、そうは思えない操舵術の持ち主で、トッププリマですら高く評価している。

 あの厳しい指導で有名な晃ですら その腕を認めたほどに・・・



 プライドが高い藍華はあまり認めたくないようなのだが、灯里にはそんなこだわりは無縁。

 《天才少女》のテクニックを素直に伝授してもらうことがしばしばあった。

 もちろん、今日のように藍華がいない時に行われることが多いのだが・・・



 「い、いえ。それ以外のことではまだまだ先輩方に教わらなくてはならないですから。」

 「でも、アリスちゃん笑顔が増えてきたね。あんなに苦手だったのに。」



 灯里にそう言われ、はにかんだ微笑を浮かべるアリス・・・

 以前の彼女にはなかなか見られなかった素敵な表情だ。



 「でっかい 灯里先輩のおかげです。」

 「そんなことないよぉ。アリスちゃんが頑張ったんだもん。」

 「・・・ありがとうございます。」



 思えば・・・

 初めて会った時から、この《灯里先輩》はすごい人だった。

 アリスが無理をしないとなかなか笑えなかったのに、彼女はごくごく自然に微笑を浮かべる。

 しかも、その微笑みは向けられた者の心を緩やかに解いていく・・・

 当のアリスも、その解かれてしまった一人に他ならない。


 しかも、この穏やかさ、緩やかさから時折繰り出される意外性の数々・・・

 その代表とも言える逆漕ぎ・・・

 乗客の視界を遮る禁じ手であるが、灯里の場合には別の面を持っていた。

 プリマ・ウンディーネの通常航行速度を軽く超えると思われる高速航行。

 一度は完全に抜き去った灯里のゴンドラに逆漕ぎで抜き返されてしまった・・・

 そのときの衝撃は今もアリスの胸に深く刻まれていた。



 《笑顔と意外性のウンディーネ》灯里・・・

 アリスにとって、今まで出合った事のないタイプ・・・

 深い興味を持ち、そして憧れていったことはごく自然である。




 「ところで、灯里先輩。」

 「はひ?」

 「ARIAカンパニーって、夜はアリシアさん帰っちゃうんでしたよね。」

 「うん。私とアリア社長だけで、お店の番してるんだよ。」

 「あの・・・今晩、お泊りに行っていいですか?」



 アリスとしては、結構勇気が要った一言・・・


 「うん、別にいいよ。アリスちゃんなら大歓迎!ですよね、アリア社長。」

 「ぷいにゅ〜!」

 「OKだって!良かったね、アリスちゃん!」



 あっけないほどに、快く受け入れてもらえた・・・

 アリスはほっと胸をなでおろした。


 「ありがとうございます!では、後ほど準備をしてから参ります!」

 「うん。待ってるよ!!」





 そして、その夜・・・




 「あら?アリスちゃん。うふふ、いらっしゃい。」

 「あ、アリシアさん。今晩はお世話になります。」




 アリシアはいつもの《天使の微笑》。

 アリスはペコリとお辞儀でご挨拶。




 「あらあら・・・ 灯里ちゃんは今食材を買いに出てるけど、じき戻るわ。」

 「では、何かお手伝でもしましょうか?」

 「そうねー・・・でも灯里ちゃんが帰ってくるまで待ちましょ。」

 「あ、そうですね。」



 すると、さほどしないうちに灯里が元気に帰ってきた。

 たくさんの野菜やお肉を抱えて・・・

 アリア社長も紙袋に入った猫まんま《NYANMAGE》を抱えている。

 たまには荷物を持ちたいと思っていたようだが、若干無理があったようだ。



 「ぷ、ぷいにゅ・・・・・・・・・」



 肩で息をするアリア社長。

 ここまで無事に上ってこられたのが奇跡に感じられるほどの疲弊振りだ。



 「あらあらあら・・・アリア社長、大丈夫ですか? お疲れ様!」

 「ぷいにゅ!!」


 アリシアの労いにVサインで応えるアリア社長。

 もはや猫とは思えない。



 「あ、アリスちゃんもう来てたんだ。待った?」

 「あ、いえ。少し早く来てしまいました。でも、5,6分くらいしか待ちませんでした。」

 「よかったぁ・・・ 待たせちゃ大変だからって急いで帰ってきたんだ。」

 「ぷぷいぷいにゅ!!ぷぷいぷいにゅ〜!ぷいにゅう〜〜〜!!!」

 「ふむふむ・・・先輩、逆漕ぎで帰ってきたんですね。」


 アリア社長の身振りをジェスチャークイズのように読み解いたアリス。

 胸を張るアリア社長。

 どうやら正解だったらしい。


 「ふぇ〜〜。アリスちゃん、よくわかったねぇ。」


 「あらあら・・・」


 「アリア社長は身振りが大きいので でっかいわかりやすいです。

  まぁくんは何を考えてるかなかなか知りえませんので・・・」


 「ぷいにゅっ!?」



 《まぁくん》の名を聞いたとたんにビクッとなったアリア社長。

 素早く灯里の後ろに隠れる。

 またもや もちもちぽんぽんはでっかいピンチなのか!?


 「あ、アリア社長 ご安心ください。

  まぁくんは、アテナ先輩が一晩面倒を見てくれてます。」


 「ぷい〜〜・・・」


 ホッとして、灯里の影から現れるアリア社長。

 でっかい 安堵の表情・・・



 気配り名人のアテナ・・・

 おそらく今夜は、お世話になる先のARIAカンパニーに迷惑をかけないようにとの配慮だろう。

 おかげで、アリア社長の平和は守られた。



 「じゃあ、お夕食作りましょ!」

 「はひ!」

 「私もお手伝いします!」



 3人で仲良く調理を開始!



 「アリスちゃん、じゃあ、ジャガイモ切ってね。」

 「はい。・・・綺麗に切るのって、案外難しいですね。」

 「ええ? アリスちゃん充分上手だよ。」

 「いえ。灯里先輩みたいに綺麗には切れてないです。まだまだ頑張らなくては・・・」

 「そーかなー・・・ ARIAカンパニーって何でも自分でやるから、そのおかげかなぁ・・・」

 「・・・コツを教えていただけませんか?」

 「私でいいのかなぁ・・・ じゃあ、アリスちゃん。ここはこうやって・・・」

 「はい!・・・こうですね。」

 「うんうん、アリスちゃん上手〜!!」



 仲良く食材を切っている灯里とアリス。

 アリシアはそれを見守っていた。

 やわらかくあたたかな瞳で・・・







 「いただきま〜す!!」

 「ぷいにゅ〜い!」


 楽しい晩餐のときがやってきた。

 今日はいつもよりちょっとだけ賑やか。

 だって、素敵なお友達が一緒だから・・・

 灯里はいつも以上にうきうきしている。



 一方アリスも、普段とは違う食事に胸が躍る。

 いつもは社員食堂の出来上がったものを食べることがほとんど。

 クッキーくらいは時々作ることがある。

 しかし、料理らしい料理はレデントーレのときに作った以外にはあまりなかった。

 必要がないから・・・




 「アリスちゃん、灯里ちゃん、お疲れ様。」



 アリシアからの労いの言葉。

 アリスもいつになく素晴らしい笑顔でそれに答える。
 


 「あ、いえ。あまり出来ない体験なので でっかい楽しみました。」

 「あらあらあら。」

 「アリシアさん、アリスちゃんものすごく包丁捌きが上手くなったんですよ。」

 「まぁ。うふふ・・・さすがアリスちゃんね。」



 アリシアは幸せいっぱいの笑顔を浮かべている。


 もはや家族とも言えるほど大切な後輩・灯里・・・

 その彼女に素敵なお友達が出来たこと・・・

 そしてその子が さらにだんだんと素敵さを増していること・・・

 それが、灯里の影響であると思えること・・・


 まるで自分の娘の幸せを喜ぶかのような慈愛に満ちた微笑であった・・・



 「アリスちゃん、どうかな?」

 「あ、これは灯里先輩が作ったものですよね。でっかい美味です!」

 「よかったぁ。 あ、これもものすごく美味しいよぉ!」

 「それは私が作ったもの・・・でっかいありがとうございます。」



 アリスのはにかんだ笑顔・・・

 それは 気を許せる相手以外にはなかなか見せない貴重な笑顔・・・

 灯里は それを見ているだけで胸の奥が暖かくなる。



 「・・・灯里先輩? どうかしましたか?」

 「え?あ、ううん。 アリスちゃん、いい笑顔するようになったね。うん!」

 「あ・・・・・・」



 頬を林檎のように真っ赤に染めるアリス。

 灯里はその愛らしさにますます目を細めていた。



 「あらあらあら・・・お食事、冷めないうちに食べてね。」

 「あ、はひ!」

 「あ、いただいています!」

 「うふふ。」

 「ぷいにゅ。」

 「やっぱり、自分で作ると一味違うでしょ?」

 「はい! でっかい美味です!」



 楽しい夕食のひと時を終え、アリシアが帰宅する時間になった。



 「今日も一日ありがとうございました!お疲れ様です!」

 「でっかいお世話になります。」

 「うん。じゃあ 灯里ちゃん、アリスちゃん。あとはお願いね。」

 「ぷいにゅ!」


 僕もいるよ!という感じで胸を張るアリア社長。


 「あらあら・・・はいはい アリア社長もお願いしますね。」

 「にゅ!!」


 『任せとけ』というオーラを纏ったアリア社長。

 それを見て 灯里とアリスもクスリと笑う。

 こうして二人と一匹の夜が始まった。


 が・・・



 「アリア社長、こんな所で寝ちゃったら風邪引きますよ?」

 「でっかい 良く寝てますね。」



 どうやら、昼間に猫好きのお客様と遊んだりして相当疲れていたようだ。

 無造作に寝てしまったアリア社長・・・



 「寝ちゃうと、結構重いんですよね。」

 「まぁくんよりでっかいですからね。」

 「あ、アリスちゃんありがとう!」



 アリスも手伝ってくれたので、思いのほか簡単に寝床へ移動してあげられた。

 幸せそうな寝顔を浮かべているアリア社長。



 「社長、どういう夢見てるんだろうね?」

 「でっかい 猫まんまの夢かもしれませんね。」

 「あ、それありそう!」

 「ですよね!」

 「うんうん!」

 「・・・にゅい・・・・・・」



 アリア社長の寝言にビクッとする灯里たち・・・

 声が大きすぎたかも、と思った。



 「じゃあ・・・私の部屋、行こうか。」

 「はい。ここで騒いでたらアリア社長の睡眠がでっかいピンチです。」

 「じゃあ、行きましょう。」

 「はい。」





 アリア社長を残し、3階の従業員部屋へと上がる二人・・・

 ここは灯里の住まう部屋・・・





 「素敵な部屋ですね。丸窓からの景色がでっかい素晴らしいです。」

 「うんうん! すごく気に入ってるんだ。」

 「でっかい夜景です。」



 ベッドに腰掛け、二人並んでしばし夜景に見入る二人・・・

 緩やかな時の流れ・・・




 「灯里先輩は・・・一人で眠るの寂しく思うことってないですか?」


 アリスの問いかけに少し思い巡らす灯里。

 そして、ニッコリと答える。



 「あ、確かに最初はちょっと切なかったかな。

  アリシアさんがおうちに帰ると 胸の辺りが少しキュンとなってたんだ。

  でも・・・最近はそうでもないかもしれない・・・・

  だって・・・

  こんな素敵な夜空を見てると、寂しいなんて思う前に 気持ちよく寝れちゃうもん。」



 「・・・そうですね。こんな素敵な夜空の下なら・・・

  寂しさなんて感じている暇なんて でっかいありませんね。

  こうして見るネオ・ヴェネツィア、いつもと違う面が見れて でっかい感動です!」



  そして、互いを指差しながら・・・



 「「恥ずかしいセリフ禁止〜!」」



 お互い同時に突っ込みあう。



 「それにしても、何で藍華ちゃん、いつも私に「恥ずかしいセリフ禁止」って言うんだろ・・・」

 「あれは、でっかい照れ隠しでしょう。間違いないです。」

 「そうかぁ・・・ 藍華ちゃんって、恥ずかしがり屋さんなんだね。」

 「でっかい素敵な恥ずかしがり屋さん、ですね。」



 そのころ・・・



 「ふぇーーーーくしょい!!!!」

 「藍華? ・・・風邪か?」

 「ん? 風邪じゃないと思いますけど・・・?」


 藍華がでっかいくしゃみを披露していた事は言うまでもなかった。




 「じゃあ、そろそろお風呂に入ろうか?」

 「あ、はい!」



 ARIAカンパニー3階の奥・・・

 そこは従業員専用の風呂場・・・

 基本的に現在の利用者は灯里一人だけ。

 アリシアは夏の汗をかいたときにシャワーを利用する以外にはあまり使用しない。

 そのほかと言えば、時折アリア社長を洗ってあげるくらいだ。



 一人用の風呂場は狭く、アリスにとっては久々に見る空間であった。

 一方の灯里は、逆に大風呂に慣れていないのだが・・・



 「狭いでしょ。オレンジぷらねっとのおふろ大きいもんね。」

 「確かに狭いけど、何だか落ち着きます。」



 人付き合いが苦手で個人主義気味なアリス・・・

 彼女にとってはかえって狭い風呂の方が落ち着けるようだ。

 だいぶ慣れたとはいえ、親しくなっていない者とともに風呂に入るのは苦痛だ。

 その点、ここなら他の者が入ってくることはない。



 自分と灯里 二人だけ・・・

 心許しあった者だけの小さな空間・・・


 普段感じられぬような安堵感を覚える自分に苦笑する。




 「灯里先輩、お背中お流しします。」

 「あ、アリスちゃんありがとう!」



 灯里の背中を流すアリス・・・

 こうやって見ると、思っていた以上に灯里の背中は大きく見える。


 『灯里先輩って・・・結構綺麗なんですね・・・・・』


 抱いていたイメージ以上に《大人》を感じたアリス・・・

 実際問題、灯里とて決して大人ではないのだが・・・

 アリスくらいの年頃では、わずかな成長の差異を大きく感じてしまう傾向があるのだ。



 石鹸をお湯で流した後の磨きたての灯里・・・

 アリスはじっと見入ってしまっていた。

 視線を感じた灯里は急に恥らう。



 「あ、アリスちゃん!? どーしたの、そんなにじっと見ちゃって・・・」

 「すみません! ・・・何だか大人っぽくていいなぁって・・・」

 「はひ!? 私なんてアリシアさんや晃さんに比べたら・・・まだまだだよ。」

 「比べる相手をでっかい間違ってます。充分大人です。」



 戸惑いながらも、少し嬉しい灯里。

 やはり大人に見られることは 少しこそばゆいが妙に心地よい。



 「ねえ、アリスちゃん・・・アリスちゃんもだいぶ成長してるよ。

  初めて会った時から比べて、だんだん大人っぽくなってる・・・うん。

  すごい勢いで大人への階段を駆け上ってるみたいだよ。

  私も頑張らないと、アリスちゃんに抜かされちゃうね。」



 「そんな・・・無理です。」



 「ううん、アリスちゃん伸び盛りだから、私もうかうか出来ないよ。

  素敵な大人になるの、競争しようよ! ネっ!!」



 灯里の素晴らしい笑顔・・・

 自分もこうなれたら・・・

 アリスの向上心に火がついた。



 「わかりました。でっかい競争ですね。」

 「うん。競争。」

 「負けませんよ、灯里先輩!」

 「私も頑張るよ!」




 笑顔が眩しい灯里・・・

 人の心を捉えて離さない魅力的な雰囲気・・・

 共にいるだけで何故か穏やかな気分になれる・・・

 アリスが目指す理想のウンディーネへの道・・・

 その行く先に≪灯里≫という星が輝いてるように思えた。






 「あ、先輩!もうこんな遅い時間だったのですね。」



 腰に手を当てコーヒー牛乳を飲んでいたアリス・・・

 壁掛け時計が10時半を指していることに気づいた。



 「本当だ・・・ 時間たつの、早いねぇ・・・」

 「はい。でっかい早いです。いつもならもう寝ている頃です。」

 「じゃあ、そろそろ休もうか?」

 「はい。」



 灯里がいつも休んでいる居室・・・

 ベッドが一つ、予備の布団が一組・・・だと思われる。

 何しろめったに使われることもない予備の布団・・・

 いくつあるかなどは、灯里すら知らないのだ。




 「じゃあ、パジャマ、私のでよかったら・・・」

 「はい。でっかいOKです。」



 灯里のパジャマに袖を通すアリス。

 やはり少しだぶだぶだ。

 わずかながら体がパジャマの中を泳ぐ。



 『やっぱり灯里先輩ってでっかいかも・・・』



 改めて灯里との体格差を感じたアリスであった。



 布団にアリス、ベッドに灯里・・・

 当たり前と思われた配置・・・

 けれども・・・



 「うむむむむむ・・・・」

 「どうしたの?アリスちゃん。」

 「なんだかでっかい落ち着きません。」



 どうやらアリスは布団に寝た事がなかったようだ。

 独特の寝心地に違和感を感じるようだ。



 「じゃあ、私が布団で寝るからアリスちゃんがベッドで寝ていいよ?」

 「それでは先輩に対してでっかい失礼です。」



 少し考え込む灯里。

 そして、少しベッドの端に体をずらす。


 「じゃあ、一緒に寝よう!」

 「え・・・いいのですか?」

 「アリスちゃんさえ嫌じゃなかったら・・・どうかな?」

 「お供します!」



 灯里のベッドに静々と滑り込むアリス。

 灯里のぬくもりが実に心地よい。



 「もっと寄らないと、落っこちちゃうよ?」

 「あ、はい!」



 遠慮を捨て、灯里に身を寄せる。



 「えへへへ・・・アリスちゃん、あったかいね。」

 「灯里先輩も、でっかい暖かいです。」

 「・・・人間って、こうやして暖かさを感じあいながら生きるものなのかもね。」

 「そうかも知れないですね・・・」



 天才ゆえに人と距離を置くことが当たり前になっていたアリス・・・

 他人のぬくもりというものを感じることを忘れていた。

 それを今思い出させてくれる灯里・・・

 アリスは、灯里のぬくもりを深く胸に刻みつけていた・・・



 「あの・・・先輩・・・」

 「うん?何?アリスちゃん。」

 「先輩は・・・好きな人って・・・いるんですか?」



 定番ともいえる質問。

 だが、灯里は別に照れる様子も見せない。

 少しだけ考えて・・・



 「好きな人ねぇ・・・アリスちゃんのこと、大好きだよ!」



 「えっ!? あ、灯里先輩!? 私ですか!? でっかいびっくりというか・・・

  でも、それも悪くないと言うか・・・何言ってるんでしょう、私・・・」


 「それにぃ、藍華ちゃん、アリシアさん、明さんにアテナさん、

  アイちゃん、暁さん、郵便屋のおじさん、ウッディーさん、アル君・・・

  みんなみーんな大好き!!」


 「!! そういう意味でしたか!?」



 勝手に勘違いしてどきどきしていたアリスは真っ赤になった。

 「好き」の意味を勝手に矮小化している自分が少し恥かしくさえ思えた。



 「アリスちゃんは、誰が好きなの?」


 「私も灯里先輩がでっかい好きです。それに藍華先輩、アテナ先輩。

  アリシアさん・・・

  まだわからない人も多いです。でも、これからでっかい増えるかも、です。」


 「うん。好きな人が増えるのって、素敵なことなんだよ。

  でっかい素敵なこと・・・だと思うよ。」


 「はい、きっとでっかい素敵ですね。」



 ある春の日・・・灯里に出逢った・・・

 それは小さな偶然・・・

 だが、それがきっかけでアリスの世界はどんどん大きくなっていった・・・

 同質の先輩アテナの後押しもあり、徐々に社交性を持ち始めていった。

 自らの殻を打ち破るかのように・・・







 「・・・じゃあ、そろそろ寝ようか。明日は早朝練習だし。」


 「はい。では先輩、おやすみなさい。」


 「うん。おやすみ、アリスちゃん。」



 ほどなくアリスは眠りに入った。

 安らかな寝息が灯里に伝わってくる。

 アリスの顔にかかった髪をそっと指でのける・・・

 安らかな、シアワセそうな寝顔・・・



 「あかり・・・せんぱい・・・」

 「はひっ!?」



 一瞬起こしてしまったかと思った灯里。

 しかし、アリスはぐっすりと眠っている。

 ただの寝言とわかり、安心する。



 「あらら・・・アリスちゃんったら・・・」



 灯里にぴとっとしがみつくように眠るアリス・・・

 灯里にはいとおしくてたまらない。

 まるで、可愛い妹のように・・・




 「ありがとう、ゴンドラさん・・・

  あなたのおかげで、こうして可愛い素敵な妹ができちゃいました。」



 お別れをした古いゴンドラに感謝の意を表した灯里・・・

 まもなく彼女も、アリスのあとを追うように 眠りの海へと漕ぎ出した。

 満足げな笑みを浮かべたまま・・・



 二人のかすかな寝息は重なり合いハーモニーを奏でていた・・・








 そして 早朝・・・



 「ん・・・

  はっ?ここは?どこですか?

  ・・・そうでした。灯里先輩のところへお泊りでした。」




 ちょっぴり寝ぼけていたアリスだが、すぐにしっかりと目覚める。

 すぐ横には灯里がまだ眠っている。

 でっかいシアワセそうな表情で・・・




 「起こしては悪いですね。もう少し眠ってていいですよ、灯里先輩・・・」



 灯里の寝顔にかかる長いもみ上げをやさしくのけるアリス・・・

 露わになった寝顔からは幸福光線がほとばしっているようにさえ思えた。

 アリスはしばし それに見入っていた・・・



 しばらく時が流れ、そろそろ起きないとまずい時間になった。



 「灯里先輩!おはようございますっ!!」

 「ふぁ〜〜・・・おはよう、アリスちゃん。 ・・・良く寝られた?」



 ようやく目を覚ました灯里・・・

 少し眠気まなこ・・・

 その目に光るあくびの雫・・・



 「はい。でっかい熟睡です。」

 「よかったぁ。ほら、枕が変わると寝られないっていう人いるから。」

 「いえ、でっかい気持ちよく寝られました。・・・先輩、あたたかったですし。」

 「はひ?」

 「・・・いえ、なんでもないです。それより朝食にしましょう。」



 アリスの頬が赤かったのは 射し込む朝日のせいではなかった・・・



 「ぷいにゅ!!!」

 「はひ〜〜〜、アリア社長・・・遅くなってすみません〜〜〜〜」



 ご飯が遅くなったので少し不機嫌なアリア社長。

 平謝りの灯里。



 『もっと早く起こしてあげるべきでしたか・・・でも・・・起こせなかったです。』



 あのシアワセそうな眠りを妨げることなどアリスには出来なかった・・・

 以前に比べて丸くなった性格に苦笑するだけであった・・・









 「こらぁ〜〜〜二人ともおそ〜い!!」

 「あ、藍華ちゃん迎えに来ちゃった!!」

 「でっかい遅刻です!」

 「ぷいにゅ!」



 大慌てで支度をしてゴンドラへと急ぐ二人と一匹。

 そこへちょうどアリシアが出社してきた。




 「灯里ちゃん、アリスちゃん、おはよう! アリア社長、おはようございます。」

 「あ、アリシアさん、おはようございます。」

 「おはようございます。すいません、でっかい急いでいますので。」

 「ぷいにゅ!!」

 「あらあら・・・行ってらっしゃーい。」



 ゴンドラへと乗り込んでいく二人の後輩・・・

 急いでる中でも幸福がにじみ出る表情・・・

 アリシアは慈愛の微笑で見守っていた。






 「こういう朝も、素敵ね。うふふ・・・」




〜〜〜〜〜〜おしまい〜〜〜〜〜〜〜


 今回は、アリスちゃんと灯里ちゃんのパジャマパーティーっぽいお話を目指しました。
 ARIA関連のコミュで投稿されていたイラストに私がつけたコメントが原点です。
 灯里ちゃんのおなかに噛み付くまぁ社長というイラストに・・・

 「灯里先輩のおなかって、噛めるほどお肉ないと思います。
  まぁ社長、でっかい 噛み付き禁止です。
  というか、灯里先輩は私の・・・なんでもないです。」

 と書いたわけなのですが・・・
 なんだかこの二人で書きたくなったのです。

 当初はもっと「百合」っぽいお話になるかとも思ったのですが、でっかい書けません。
 結局ほのぼの路線に落ち着いて、ほっとしています。(笑)

 藍華ちゃんがほとんど出ていない今回の作品・・・
 近々埋め合わせをしないと、ほっぺたを思い切り引っ張られそうな気が・・・(w
 私の作風だとどうしても灯里&アリスが書きやすいのも事実ですが、何とかせねば・・・

 ではまた次回作でお会いしましょう。  


背景素材:Queen's FREE World 様


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