その 自分ルールの達人さんは・・・




 「アリスちゃん、おはよう!!」

 「おはようございます、灯里先輩!」



 いつもの朝の挨拶。

 だが、いつもとちょっぴり違っていたのは・・・

 アリスがいつもよりニコニコしているのだ。



 「アリスちゃん、今日は何だかご機嫌そうだね。何かあったの?」

 「あ、これ、《自分ルール》実行中なんです。」

 「ほえ?《自分ルール》?」



 普段は大人っぽい言動が印象的なアリス・・・

 そんな彼女が歳相応の表情を見せる《自分ルール》・・・

 自ら作ったルールにそって行動をするのだ。

 誰の助けも借りたりせずに・・・



 「今日は、笑顔を絶やさないで一日過ごそうって決めたんです。」

 「そっかぁ。それで、そんなにニコニコしてるんだ。」



 普段は仏頂面が得意なアリス・・・

 笑顔は大の苦手・・・

 それでも、最近は相当慣れてきたようだ。

 ゴンドラに乗ってる間くらいは笑顔を保つことは出来つつあった。

 とはいえ、一日中笑顔を保ち続けるというのはかなり難しい。

 別に不得手でない人でも、実際に行ってみればその困難さは実感できるだろう。



 「素敵な目標だね。」

 「はい。不得手克服と困難な目標への挑戦・・・これはでっかい燃えます!」



 アリスのシャープながらも大きめの双眸はメラメラと燃え上がっている。



 「アリスちゃん、素敵んぐー」

 「恥ずかしいセリフ、禁止っ!!」

 「ええーーーーーっ」

 「あ、藍華先輩 おはようございます。」



 突込みが得意技の藍華が現れた!

 恥ずかしいセリフ撲滅に命を燃やしている・・・のかな?



 「何だか、ナレーターが恥ずかしい事言ってるけど・・・それはスルーして・・・」

 「でっかいスルーしてませんね。」

 「うん。しっかり気にしてるよ?」

 「ぬな!!! ってゆーか、そんな話じゃなくってぇ、後輩ちゃん、機嫌いいの?」

 「というより、自分ルール実行中です。」



 アリスと灯里は藍華に今までの説明をした。

 その時、藍華の瞳がキラリンと光った。



 「そうだ! じゃあ私達も何かやってみない?《自分ルール》を・・・」

 「へ? あ、でも面白そーだねー」

 「でしょ、でしょ!」

 「でっかいナイスアイデアです。」



 こうしてウンディーネ娘3人衆は《自分ルール大会》を始めることにした。

 ところが・・・



 「灯里先輩が笑顔を絶やさないのって、でっかい簡単すぎです。」

 「はひぃ?」

 「それもそーねぇ・・・・・じゃあ、あんたは笑顔禁止!」

 「ええーーーーーーーっ・・・出来るかなあ・・・」



 明らかに動揺している灯里。

 彼女の笑顔を封印をすることは困難を極めるであろう。

 だからこそ、自分ルールに相応しいというのが藍華の考えだ。



 「じゃあ、藍華ちゃんは突っ込み禁止!! 《禁止》って言っちゃダメだよー。」

 「ぬな!」

 「灯里先輩とのバランスで考えたら、それくらいはでっかい当然ですね。」

 「わ、わかったわよー。じゃあ、それでOK!」



 こうして、3人の目標は定まった・・・のだが・・・



 「わーひ、がんばるよー!」

 「・・・あ!? 灯里先輩!」

 「そこ!!笑顔禁止!!」

 「ええーーーーっ」

 「・・・藍華先輩まで・・・」



 一瞬にして目標は破れてしまった。

 ため息をつく灯里と藍華・・・

 それでも笑顔を保っているアリス・・・



 「う〜ん・・・難しいねー・・・」

 「確かに、こりゃ難しいわ。」

 「では、先輩方。私、そろそろ学校に行ってきますので・・・」



 笑顔で走り去っていくアリスを見送る二人・・・



 「アリスちゃん、すごい・・・」

 「なかなかやるわね、後輩ちゃん。」



 自分たちより年下のアリスに負けた・・・

 その厳然たる事実が、藍華の闘争心に火をつける。



 「ねえ、灯里。もう一回さっきの目標、挑戦してみよう!」

 「ええーーー、すごく難しいと思うけど・・・」

 「いい?灯里。このままじゃ、私たちシングルの名折れよ?」

 「私・・・気にしてないけど・・・」

 「私は気にするの!」



 火付きの悪い灯里を思い切りけしかける藍華・・・

 ついに灯里は陥落してしまう。

 再び開始される二人の《自分ルール》




 「やっぱり疲れるよぉ・・・笑っちゃいけないのって・・・」

 「弱音は禁・・・・・・・  確かに難しいわねぇ・・・」



 ゴンドラの合同練習を続けながら、《自分ルール》は続行中の二人・・・

 いつも以上に疲労がたまる。



 「なんだか、いつもの3倍は疲れる気がするわね。」

 「うん。マンホームに古くから伝わる「赤い彗星」みたい・・・」

 「・・・わけわからない例え禁止っ・・・・・・・しまったぁ!!」

 「あはははは、藍華ちゃんの負けぇ・・・って、え? ほえ??」

 「あんたも負けでしょ、後輩ちゃんに。」

 「はぁ・・・・・・」



 またまたがっくりと肩を落とす二人・・・

 気を取り直して、再チャレンジ。

 正直灯里はそうでもないのだが、藍華がでっかい意地になってるようだ。

 もう3,4回はやり直している。



 「お! もみ子!!・・・と、ガチャペン・・・」

 「あ、暁さん。」

 「なによぉ、ポニ男。」

 「誰がポニ男だ、ガチャペン・・・・・・ん、どうした、もみ子。」



 暁は灯里の異変に気づいた。

 いつも『笑顔がすぐこぼれる』微笑のウンディーネ・灯里・・・

 それが今日はちっとも笑っていないではないか。

 暁は、こんな灯里を初めて見たような気がした。



 「え?別にどうもしないですよ?」

 「そうか? 何だかいつものもみ子らしくないぞ。」

 「そんなことないですよ。それに、もみ子じゃないです。」



 笑顔が消えただけで・・・

 いつもと同じことを言っているのに何でここまで印象が違うのか?

 普段彼女から受けるふんわりした印象がすっかり消えている。



 「おい、ガチャペン。もみ子のヤツどうしたんだ?」

 「あ、ちょっとね。気になるの?」

 「ぬなっ!?」



 暁の大きなリアクション・・・

 どう見ても、「気になる」って言ってるようにしか見えない。

 それでも、必死でそれを認めないようにする。



 「ば、ばかなっ! もみ子なんかのこと、気になるわけねえだろ?

  俺様は、このアクアを守る正義の使徒、暁様だ!アリシアさん命だ!

  もみ子なんか・・・もみ子なんか・・・・・」



 どうやら、暁の中で灯里の存在は相当大きくなっているらしい。

 だが、彼自身は断固としてそれを認めたくないらしい。



 「ほへ? 暁さん?」



 心配顔で暁の顔を覗き込む灯里・・・

 額と額がくっつく。



 「ぬなっ!!!!!???」

 「・・・熱はないみたい・・・顔、真っ赤ですよ。」

 「あ〜あ・・・ポニ男ったら・・・もーダメっぽいわね。」



 灯里の顔が大接近したことで、暁は限界突破してしまった。

 もはや、正常にこの地にとどまることは出来ない。



 「お〜れは人造人間〜 正義の味方〜〜♪」

 「あ、暁さん、大丈夫ですかっ!?」

 

 意味不明な歌を大声で歌いながら、暁は去っていった・・・

 ポカンとしている灯里とニヤニヤしている藍華を残して・・・



 『それにしても、灯里のヤツのポケポケぶり、でっかい罪だわね。』



 恋愛とかそういう事にまったく疎い灯里・・・

 暁のドキドキしたハートを感じ取るにいたってはいなかった。

 だからこそ出来る無防備な接近・・・

 自分が男だったらたまんないかも、と思う藍華であった・・・




 「あ、藍華さん、灯里さん。練習ですか?」

 「あ、アル君!」

 「アル君、おはよう!」




 地重管理人ノームのアル。

 見た目はアリスより幼いが、年齢はアリシアと同じ19歳。

 特技:オヤジギャグ。

 藍華といい関係になりつつあるらしい・・・


 「って、ちょっとナレーターさん、何ヘンな解説してんの?」

 「藍華ちゃん!?誰とお話してるの?」



 それはさておき・・・・・・




 「なんだか灯里さんの元気がないみたいですけど・・・」

 「へ? ・・・元気だよ?私。」

 「そうですか? なんか、表情が暗いなって思ったんですけど。これくらい・・・」

 「そーかなぁ・・・」



 まったく『気づかなかった』灯里。

 『気づいた』が無視を決め込む藍華。



 「あの、今のは『暗い』と『くらい』を引っ掛けた、マンホームに伝わる・・・」

 「オヤジギャグきん・・・」

 「藍華ちゃんっ!!、ダメっ!!」

 「はっ! 灯里、サンキュー!」



 危うく『禁止』を言ってしまいそうな藍華をすんでのところで救った灯里。

 彼女にしてはすばやい反応だった。



 「な、なんですか?今のは・・・」

 「あ、ああ。気にしなくいていいのよ。」

 「そうそう。自分ルール実行してるだけだから、気にしなくていいよ。」

 「自分ルール・・・ですか?」



 頭上に大きなはてなマークが浮かんでいるアル。

 藍華と灯里はこれまでのことを話した。



 「なるほど・・・そういうわけだったわけですね。

  わかりました。では、私も・・・

  マンホームに古くから伝わる高等古典芸能を封印します。」


 「ぬなっ!? オヤジギャグを封印!?」


 「ほへっ? あれ、面白いのになぁ・・・」


 「灯里ぃ・・・あんた本当にあれ、面白いと思ってるの?」


 「うん。」




 灯里ちゃん・・・その割にさっきは気づかなかったみたいだけど・・・・・・

 それはさておき・・・って、こればっかりだな・・・



 「その昔、冥王星も太陽系の惑星だったことがあるのはご存知ですか?」

 「ほへ〜、そんな事があったんですかぁ。」

 「知らなかったわ。昔から海王星までって言うわけじゃなかったのね。」



 などと、星の話を始めた3人・・・


 「それで、結局は格下げされて矮小だの何だのって蔑まれちゃったわけなんです。」

 「う〜ん、なんだかかわいそうね、冥王星・・・」

 「ですから、当時、ある地域では格下げの事を俗に《プルート(冥王星)》と言ったそうです。」

 「・・・それでも冥王星は素敵だと思うよ。うん。まるで太陽系に咲いた小さなお花みたい・・・」


 灯里がお決まりの『あの言葉』を発した瞬間・・・



 「恥かしいセリ・・・むぐぐぐ・・・・・・・」

 「ダメです、藍華さん!!」



 藍華の口をとっさに掌でふさぐアル。

 自分ルールの破綻は未然に防がれた。

 だが、唇に突然触れられてしまった藍華は・・・



 「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜す!!」

 「あ、藍華ちゃん!?」

 「す、すみませんっ藍華さん。」





 真っ赤になって雄たけびを上げるのであった。



 「それにしても、灯里。こんどはずいぶん上手く行ってるみたいね。」

 「うん。大変だけど、慣れると結構楽しいなぁって・・・」

 「・・・・あっ。」

 「あちゃ〜〜〜〜・・・」

 「ふえっ?」



 一瞬の気の緩みか?

 灯里の顔に浮かんでしまった幸せそうな笑み・・・

 こうして、灯里は脱落した。



 「たくもう・・・誉めたとたんにこうだもんね。」

 「ごめんね、藍華ちゃん・・・」

 「まあ、笑ってない灯里さんって言うのもなんだか下手なお笑いみたいなものですよね。」

 「ほへ?」

 「あんた、まさか・・・。」



 いよいよ出るぞ出るぞ・・・といった表情の藍華。

 それに引き換え灯里はキョトンとしている。



 「つまり、落ち着かない! これは『落ち着かない』と『落ちがつかない』をかけた・・・」

 「オヤジギャグ禁止っ禁止っ禁止っ禁止っ禁止〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

 「ふえ〜〜〜〜〜〜・・・藍華ちゃん、ちょっとこわひ〜〜〜〜」



 今まで我慢していたものが一気にはじけた。

 いわゆる『テンプテーション・禁止』・・・

 古代のマンホームにつたわりし高等魔術のひとつで、連続して魔力の発動を・・・・・・・え?





 「まあまあ、藍華さん落ち着いて落ち着いて・・・

  皆一緒に禁を破ったというのも何かの縁でしょう。

  よく言いますよね? 『縁は異なもの味なもの』と・・・」


 「相変わらずオヤジくさいわねぇ・・・」




 もはや、この二人の間には立ち入れないのではないか・・・

 一抹の寂しさと不安を感じる灯里であった・・・




 「あ、先輩方!」

 「アリスちゃん!!」

 「後輩ちゃん!!」



 学校を終えたアリスが戻ってきた。

 真っ直ぐに寄り道せずにここに来たのだろう。

 制服姿のままだ。

 そして、その表情は・・・

 眩しい笑顔に彩られている。

 朝と変らず・・・

 いや、むしろ朝より笑顔のパワーが増したようにすら見える。




 「もしかして、後輩ちゃん。《自分ルール》まだ継続中だったりするの?」

 「はい。もちろんです。・・・って、先輩方?」



 灯里はいつものお日様スマイル。

 藍華は気まずそうにモジモジ・・・

 一緒にいるアルも何かきまり悪そう。



 「今日は私のでっかい勝利ですね!」

 「ぬなっ!」

 「はひ〜〜〜、勝負だったの?」

 「われわれの完敗ですね。帰ってワインででも乾杯しましょうか?」

 「未成年飲酒禁止!」

 「え〜〜〜〜〜っ、・・・僕、大人なのに・・・」

 「ってゆーか、私も灯里も未成年だってば!」



 一人勝ち誇ったアリス。

 灯里たちは思った・・・



 「アリスちゃんって・・・」

 「後輩ちゃんって・・・」

 「やっぱり《自分ルールの達人》ですね!」



 〜〜〜〜おしまい〜〜〜〜


 え〜・・・本当はこの作品より前にシリアスものを書いてたのですが、でっかい煮詰まりました。
 そこで、以前FF10シリーズのSSでよく書いていたギャグベースの短編を書いてみたわけです。
 かなり今回は羽目を外したというか、悪ふざけの限界突破というか・・・(苦笑)
 ちなみに、ARIA外のネタも混じってます。
 気づかれた方も居られるかも?
 では、また・・・  


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