その 素敵んぐなプレゼントは・・・





 「んもぉ・・・最悪なんですけどぉ・・・」



 姫屋の従業員宿舎の一室。

 藍華はベッドに腰掛け、ため息混じりにぼやいていた。




 「何でよりによって・・・こんな日に風邪、ひくかなぁ・・・」




 壁に提げられたカレンダー・・・

 特製のマンホーム暦表示つきのものだ。



 マンホーム暦の2月2日につけられた丸印。

 藍華は、恨めしそうな視線で見つめていた。



 その日付には、灯里の字でメモ書きが添えてあった。


 「藍華ちゃんの素敵んぐなお誕生日」


 藍華は、その書き込みがなされた日の事を思い起こしていた。


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 「藍華ちゃん〜、もうあさってだね、お誕生日!」

 「でっかいおめでとうございます。」

 「ありがと、後輩ちゃん・・・ってまだじゃん。あさってだし。」

 「じゃあ、忘れないように印つけておこうね。」

 「ぬな!? 灯里ったら・・・」

 「でっかい 勝手に書き込んでますね。」

 「でっきあっがり〜♪ うふふ・・・なんか、いいよねぇ〜」

 「では、その日は合同練習が終わったら お祝いしましょう。」


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 あの日の会話が藍華の頭でぐるぐると回り続ける。

 きょうが、その『印の日』だったのだ。

 それなのに、風邪を引いてしまった藍華・・・

 自己管理の甘さを呪っていた。



 「入るぞ、藍華。」

 「あ、晃さん。」




 特製焼きおにぎりを持って晃が入ってきた。

 おいしそうな香りが部屋いっぱいに漂う。



 「・・・すいません、ご迷惑おかけして・・・」

 「まったくだ。あれほど自分の体はちゃんと自分で管理しろって言っただろ?」

 「はい・・・」



 しゅんとしている藍華の額に手をやる晃。



 「ふむ・・・熱はないみたいだな。」


 そして、そのまま藍華の髪をくしゃくしゃと撫でる。



 「ま、落ち込んでばかりじゃ 直るもんも直んなくなるさ。

  この晃様特製焼きおにぎりでも食べて、早く元気になれよ!

  灯里ちゃんもアリスちゃんもすごい心配してたぞ。」


 「はい。ありがとうございます、晃さん。」



 少しだけ元気を取り戻した藍華。

 焼きおにぎりをほおばる。

 晃の暖かさを感じさせる素朴な美味は彼女の胸を熱くしていく・・・

 涙腺、あっけなく決壊。

 晃、たじろぐ。



 「おい、藍華・・・泣くな・・・すわっ!! 泣くなってば!!」

 「止まんないです・・・止まらない・・・・・・」

 「すわっ!! じゃ、じゃあ私はもう行くからな。しっかり寝ておけよ!」



 涙は苦手な晃・・・

 その場を逃げるように去っていった。




 「灯里たち・・・今頃練習の真っ最中だろうな・・・」

 「みゃ〜〜ん♪」

 「ありがとう、姫社長・・・」



 気遣うかのように藍華に寄りかかる姫社長。

 藍華はそっとそのしなやかな体を撫でる。

 気持ちよさそうに体を伸ばす姫社長・・・



 退屈な時間だけが過ぎていく・・・

 眠ろうとしても、目が冴えて眠れない。



 「はぁ・・・一日って、何でこんなに長いんだろう・・・

  まるで 砂時計の砂が落ちることをサボってるみたいだよね・・・

  無限とも思える時の流れの中で 永遠に漕ぎ続けるのかな 私・・・ なんてね。」


 「藍華ちゃん、恥ずかしいセリフ禁止〜〜〜!! わ〜ひ!!」

 「いまのは でっかい恥ずかしかったです。」

 「ぎゃーーーす!?」



 いつの間にか、灯里とアリスが部屋に入ってきていた。

 手には洋菓子屋の箱を携えて。



 「あ、あんたたち、いつの間に?」

 「前回の経験もあるので、でっかいいきなり入ることにしたんです。」

 「そうしたら藍華ちゃんが恥ずかしいセリフ話してたんだよね。」

 「・・・あんたにだけは言われたくなかった。」

 「ええーーーーーっ!?」



 今日は会えないと思っていた灯里たち・・・

 それが今、目の前にいる。

 藍華の表情はいきなり輝きを取り戻す。



 「これは、おみやげのプリンです。」

 「それも、生クリームのせだよ。」

 「おおっ!!私の大好物〜〜!」



 ところが・・・

 箱を開けるとなぜかプリンは2個しかない。



 「・・・へ?」


 そして灯里たちの意外な行動・・・



 「じゃあ、私たちはもう帰るね。お大事に、藍華ちゃん!」

 「でっかいお大事に。では、失礼します。」

 「ええっ!? もう帰っちゃうの!?」



 せっかく来てくれたと思った灯里たち・・・

 それなのに、もう帰ってしまう。

 ショックを隠しえない藍華だった。




 「なんなのよぉ。・・・灯里のバカ・・・」

 「・・・ちなみにバカというのは『うましか』って書くんですよね。」

 「・・・・・・えっ??」



 灯里たちと入れ違いに部屋に入ってきた者。

 それは 藍華がよく見知った小さな男の子・・・ではなくて小柄な青年。

 ノームのアルであった。



 「アル君!?何であんた、こんなとこにいるの?!」

 「いては、まずいですか?」

 「ううん・・・来てくれてありがとう。」




 再び涙腺決壊!

 アルの小さな体を強く抱きしめる藍華。

 アルもやさしく藍華の体を包み込む・・・


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 ようやく藍華は落ち着きを取り戻す。

 すると、抱き合うことが急に恥ずかしくなり、慌てて体を離す。

 彼女の頬は 姫屋のイメージカラーのように真っ赤に染まっていた。



 「そ、それにしてもよく来れたわね。」

 「あ、実は灯里さんたちが・・・」


 「え? 灯里?」


 「はい。わざわざ仕事場まで来て、藍華さんのことを教えてくれたんです。

  風邪をひかれたこと、そして、今日が藍華さんのお誕生日だということを・・・

  幸い、アパ爺さんも気を利かせて、今日一日をお休みにしてくれました。

  やはり、持つべきものは 良き友ということですね。」





 灯里たちの 藍華へのバースデープレゼント・・・

 それは 会う機会がさほど多くない二人を引き合わせる事であったのだ。



 地底深いアルの仕事場・・・

 当然、行くのに時間は掛かった。

 練習の時間を削ってまで 朝一番にそこを訪れた灯里とアリス・・・

 藍華の目頭はまた熱くなっていった・・・



 「まったくもう・・・ あの二人ったら・・・

  私がいないと、すぐ練習サボっちゃうんだから・・・

  待ってなさい、灯里、それに、後輩ちゃん。

  明日は良くなって、二人がサボれないようにビシッと指導するからね。」








 「今頃、藍華ちゃんたちうまくやってるかな?」

 「でっかいお節介ですね、私たち。」

 「うふふふ、そうかもね。でも、誰かが喜ぶのって 自分まで嬉しくなるよね。」

 「灯里先輩・・・でっかいアテナ先輩みたいです。」 








 ベッドに並んで腰掛けた藍華とアル。

 灯里たちが持ってきてくれたプリンを二人で味わっていた。

 そのプリンは、一生忘れることのできない味であった・・・



〜〜〜〜〜〜〜 おしまい 〜〜〜〜〜〜〜


今回は、藍華ちゃんの誕生日あわせで大急ぎで書きました。
久々(ARIAでははじめて)の恋愛モノのつもりで考えました。
その方面は、でっかい苦手ですが・・・
結局 恋愛物というより、友情物になってしまいましたし(笑)
藍華ちゃん、お誕生日おめでとうです!! 


背景素材:Queen's FREE World 様


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